イラクのサダム独裁政権を倒す、そのことによって、WMD(大量破壊兵器)撲滅を果たす、という大義名分で始まめられた、アメリカによるイラク戦争は、2003年3月に以来、今日までに大量の戦死者を、アメリカ軍とイラク軍に生み出した。そしてそれ以後も、駐留アメリカ軍と新生イラク軍や警察に、更なる大量の犠牲者を生み出している。(アメリカ政府の公式発表では、アメリカ軍人は4415名、負傷アメリカ軍人は約32000名、民間の発表ではこれ以上の犠牲とされている。たとえばICHはイラク人犠牲者数を1366350名、アメリカ軍犠牲者数を4733名と伝えている)
イラクの民間人の死亡者数は、100万人を超えたと伝えられているし、その難を逃れ、イラクの周辺諸国に移り住んだ、イラク人難民の数も何百万人の単位で、報告されている。
そしてこの8月19日、アメリカ政府はイラクからアメリカ軍戦闘部隊を、撤退させる事を決定し実施した。アメリカ軍は戦闘地イラクからクウエイトに移動を終了したということだ。
このアメリカ駐留軍(占領軍)のイラクからの撤退は、歓迎すべきことであろう。もちろん、アメリカ軍の撤退後には、多くの危険が待ち受けているため、イラク国民の多数が将来の安全に対する、不安を高めていることであろう。既にアルカーイダは、イラク国内での戦闘活動を拡大していくことを、宣言しているし,アラブ、トルコマン、クルドという人種間の武力衝突や、スンニー、シーアというイスラム教宗派間の衝突もあろう。
膨大な量の石油資源を持つイラクに対し、周辺諸国ばかりではなく、欧米諸国も、イラクに対し新たな食指を、伸ばしてくることであろう。つまり、イラクは今後、多方面からの介入や工作により、ますます混乱の度を増していく、と予測するのが常道であろう。
しかし、いまイラク人が考えなければならないことは、アメリカ軍の駐留によって、国内的な安定が期待できる、という安易な他力本願の考えを、捨てるということだ。自国の安全と安定は、イラク国民自らが、実現していかなければならないということだ。それを行わなかった日本が、大東亜戦争後今日に至ってどうなっているのかを、考えてみれば分かることだろう。
イラク政府と国民は、アメリカ政府が巨額の赤字を抱え、やむなくイラクから軍を撤退させ始めたいまこそ、全面的な撤退を勝ち取るべきではないのか。アメリカ政府はアメリカ軍を撤退させた後に、民間警備会社に対し、多数の警備員(戦闘員)を、イラク国内に送り込むことを決めている。彼らの蛮行は既に、十分イラク国民と政府は認識しているであろう。
加えて、アメリカ軍が今後、イラクの軍や警察を指導する、という名目で残留するが、これも出来るだけ早く撤退させるよう、イラク政府と国民は動くべきであろう。
アメリカ軍は全面撤退を、2011年には実現すると言っているが、それでは何故巨大な軍事基地を、イラク全土に築いたのか。その費用は莫大であろうが、それは何処から捻出して来ていたのか。そして、アメリカ軍が全面撤退することを、アメリカ政府は全く予想せずに、これらの軍事基地を、建設してきたのだろうか。
そうとは思えない、アメリカ政府がアメリカ軍を、イラクから全面撤退するのは,あくまでも臨時的措置だ、と考えるべきではないのか。いまアメリカは他の敵と対峙するために、イラクに大量の軍を投入させてはいられない、ということではないのか(あるいはイランとの戦争に備えて、アメリカ軍をイラクから一時的に、退避させることが目的ではないか?)。
イラク政府はアメリカ軍のイラクからの、完全撤退を実現する方向で、アメリカ政府と交渉すると同時に、アメリカ軍が再度、イラクに派兵されてこないような合意を、取り付けておく必要があろう。そうしなければ、アメリカ政府はこれまでに構築した、アメリカ軍のイラク国内の基地を、何時でも自由に使用できる、状態になってしまうからだ。
そうなれば、イラクは永久にアメリカの占領下に、置かれるということだ。それでは、これまでのイラク人の犠牲は、何の意味も無い、無駄なものになってしまうだろう。
アメリカ政府がイラクから手を引き始めたいまこそ、イラク政府と国民は自分の国の治安は、自分の国民と政府で、確かなものにしていく、という意志を固めて欲しいものだ。そのためには、イラク政府はイラク国内にある、アメリカ軍基地について、正確な情報をイラク国民に知らせることが、先決ではないのか。