ラマダン月(断食月)は、イスラム教徒にとって特別の月だ。一日の断食が終わった後には、毎晩がお祭り騒ぎになり、友人知人が招待しあうということは、以前にもご報告したとおりだ。
ラマダン月は述べるまでもないが、このようなお祭り騒ぎばかりではない。善男善女も悪男悪女も、押し並べて宗教的な雰囲気に浸るのだ。ラマダン月以外の時も、一日5回の礼拝時を伝えるアザーンは、各モスクかららラウド・スピーカーで流れてくるが、そればかりではなく、ラマダン月になると、日中や夜間にもコーランの読誦が、ラウド・スピーカーから流されるのだ。
述べるまでもないが、このコーランの読誦は、イスラム教徒たちを敬虔な気持ちにさせ、聖なる月ラマダンのなかに自分があることを、実感させるのだ。したがって、このコーランの読誦がラウド・スピーカーから流れても、イスラム教徒は誰もそれを、うるさいとは感じないのだ。
しかし、いまヨルダン川西岸地区では、このコーランの読誦が問題になり、その対策がまた問題となっている。最初はヨルダン川西岸地区に入植した、イスラエル人の間で不満が高まり「うるさいから何とかしろ。」というクレームがイスラエル政府側に伝えられ、イスラエル政府はそれを受けて、パレスチナ自治政府に対処を命じた。
パレスチナ自治政府には、イスラエル政府の命令は絶対であり、直ちにヨルダン川西岸地区のモスクに対し、ラウド・スピーカーでコーランの読誦を流すことを、止めるように通達した。
このパレスチナ自治政府の指示に、即座に噛みついたのは、パレスチナ自治政府と敵対関係にある、ガザのハマース組織だった。「コーランの読誦を禁止するとは何事だ。」「しかも、それに従わないイマームを更迭するとは何事だ。」という抗議を始めたのだ。
ハマースは、モスクのイマームの説法内容を統一しようとする、パレスチナ自治政府の姿勢にも噛みついた。パレスチナ自治政府にしてみれば、モスクが反体制側の拠点、集会所になることを、放置できないからであろう。また、イマームが反パレスチナ自治政府の内容の説法をすること、聖戦(ジハード)をあおるような内容の、説法をすることは、極めて不都合なことなのだ。
ハマース側は宗教的な行事を規制する、パレスチナ自治政府は、他方でナイト・クラブやカジノの運営を許可している。これではイスラム教に対する、挑戦であり戦争だ。」とまで非難の舌鋒を鋭くしているのだ。
そもそも、事の起こりは、正当な権利を持たないイスラエル人が、勝手にパレスチナ人の土地に入ってきて、強引に住み着いたことが発端だ。その彼らが、今度はコーランの読誦がうるさい、とクレームをつけるというのは、言語道断であろう。
その明白な正論よりも、イスラエル政府の命令に従う、パレスチナ自治政府の立場が、いかに弱いものであるかが分かろう。パレスチナ自治政府はイスラエル政府の庇護下にあるのであって、イスラエルとの間で、パレスチナの権利を主張して、交渉している組織とは、最早言えなくなっているのではないか。