8月17日のアルコドスルアラビー紙は、一面トップで、アメリカのオバマ大統領がトルコに対し、イスラエル対応を変えなければ、トルコへの兵器供与を中止する、と語ったと報じた。
もしこの報道が事実であるとすれば、アメリカの中東政策に、大きな変化が生まれるということだ。この同じ時期に、アルカーイダのナンバー2であるアイマンザワーヒリは、トルコに対して、オスマン帝国としての役割を、果たすように求めている。
確かに、最近のトルコの外交は、アメリカの外交と合致しない点が多い。たとえば、アメリカが最も重視している、イスラエルとの関係は、極めて厳しいものになってきているし、イランに対し、アメリカが経済制裁を強化する中でも、トルコはイランに対し、ガソリンを供給することに加え、貿易を拡大させてもいる。
こうした状況を見ていると、アメリカがトルコに対して、怒りを爆発させるのは時間の問題だ、と捉えている中東専門家、トルコ専門家は少なくなかろう。しかし、実際はそうではないのではないか。
トルコがイスラエルに対して、極めて厳しい対応を取っているのは、アメリカにとっては、好都合な部分もあろう。アメリカが言い難いことを、トルコが代弁してくれている、ということもあろう。トルコが厳しい対応をとっても、アメリカがそれをなんら非難しなければ、アラブ諸国は溜飲を下げることになるだろう。
そして、アラブ各国の首脳たちは、アメリカにはトルコを使って、イスラエルの国内外政策を、修正したいという願望があるのだ、と理解するのではないだろうか。
ここで忘れてならないのは、アメリカにとって、トルコはマレーシアと並び、穏健なイスラム国であり、しかも、世俗主義の国家であり、民主国家だということだ。そのことは、アメリカが中東世界や、イスラム世界に対する対応の上で、トルコは最も好都合な、パートナーであるということだ。
また、アメリカが直面している、中東の国々への対応でも、トルコの果たしうる役割は大きい。イラク、シリア、レバノン、ガザのハマース、イラン、アフガニスタンへの対応で、現在トルコが果たしている役割は、大きいものであり、そのことはどの国も否定できないだろう。
表面的には関係が悪化したことになっているトルコとイスラエルは、いまだに軍事面での協力関係が、続いているのだ。最近、エルドアン首相が主催したラマダンのエフタールパーテイに、イスラエル大使が招待されなかったことが、大きな関心と話題を呼んだが、フロテッラ号事件の後であるだけに、エルドアン首相としては、国内外の反応を考慮すると、招待し難かったのであろう。
そのことで、イスラエル側から激しい非難の言葉が、トルコ側に向けられたとも、厳重な抗議があったとも、聞いていない。それは、トルコは招待しない理由を、事前にイスラエル側に、丁寧に説明し、伝えていたからではないのか。
トルコの外交は、一見乱暴なイメージを与えているが、内実はそうではない。フロッテラ号事件の後も、トルコに滞在しているイスラエル人が、暴漢に襲われたというニュースは、全く伝えられていないし、トルコ国籍を有するユダヤ人が、何らかの差別や被害を蒙った、というニュースも伝わってきていない。
つまり、トルコは十分に成熟した国家であり、政府であり、国民だ、ということだ。そのことを、アメリカは正確に評価しているのではないか。そうであるとすれば、アルコドスルアラビー紙が伝えたようなことは、起こらないと考えるべきではないのか。