「パン不足が革命を起こす・エジプトの例」

2010年8月10日


      

 エジプトの大統領がサダト氏の時代、確か1979年頃、エジプト政府がパンの価格を引き上げることを決定したところ、エジプト全土で暴動が発生したことがある。当然、政府は大慌てで、値上げを撤回している。

 いまエジプトでは、似たような現象が起ころうとしている。その原因は、エジプト政府の決定に基づくものではなく、外部要因によるものだ。世界的な干ばつや、ロシアでの森林火災が、世界の小麦市場で、価格を吊り上げている。

 ロシアは小麦不足が懸念されることから、輸出停止を決定している。そのことは、当然価格の高騰につながるわけだ。エジプトはこのロシアに45パーセントの輸入分を、依存しているので、影響は如実に現れよう。

 エジプト政府はロシアに対し、輸出停止発表の前に契約していた分の、小麦の引き渡しを要請しているが、どうなるか分からない。そこで、ロシアに代わる輸入先として、東ヨーロッパ諸国、アメリカ、フランスが挙げられている。

 エジプトではすでに、小麦不足の影響が出ている。朝早くから政府系のパン焼き工場の前に、庶民が長蛇の列を作っているのだ。それでも買えずに帰る人も、出始めているようだ。

 エジプトのパン消費量は相当なもので、毎月675000トンの小麦粉が消費され、23000の製パン工場が稼働している。その工場が焼きあげるパンの枚数は多く、毎日2・3億枚から2・4億枚にも上るということだ。

 1枚が5ピアスタ(1円)だったものが、既に50パーセントの値上がりをし、7・5ピアスタになったということだ。もちろん、この価格は政府の補助金が入っていることから、安いわけなのだが、貧困層にとっては、パンの価格が50パーセント値上がりすることは、生活に直接的に大きな影響を、与えることになる。

彼らの食事は大量のパンと、豆を煮てペースト状にしたフール。それに野菜を生かじりして生きているのだ。その食卓には一片の肉も登場しないのだ。貧困層の月収は250ポンド(5000円)、その収入で大家族が生活していることを考えてみれば、いかに生活が苦しいか想像がつこう、、しかし、そのような状況は日本人には、全く想像できないかもしれない。

 イスラム世界では、8月10日からラマダン月が始まるが、政府や民間のNGOは、貧困家庭向けにラマダン・ボックスを用意した。その箱のなかには、小麦粉、豆、アダス、マカロニ、ナツメヤシ、砂糖などが、詰められているということだ。

 その箱が1日当たり、50000箱配られているということだ。そして、1800万食が貧者の食料として、準備されるということだ。しかし、それが今回のパンの値上がりショックを、和らげるかどうかは分からない。エジプトは8400万人の人口を擁する大国なだけに、問題の解決は困難を極める。そのことは次期大統領の選出にも、影響を及ぼしてくるのではないか。野党が言うように「ガマール君にはエジプトは大きすぎる=ガマール候補よエジプトは君には手に負えない大国だ」ということであろうか。