「アメリカとオバマ大統領に失望するアラブ」

2010年8月 8日

 

 先日、欧米のマスコミに、アラブがアメリカとオバマ大統領に失望している、というニュースが掲載されたように記憶している。それは、おおよそ次のような事情によるものだ。アラブ人にとってアメリカに期待し、かつ失望するのは以下のような事柄であろう。

 

(1)中東問題(パレスチナ問題)の公平な解決

(2)アラブ諸国の安全保証

(3)イランとイスラエルの核問題に対する公正な対応

 

 オバマ氏がアメリカの大統領に就任したとき、多くのアラブ人は彼が有色人であることや、彼がイスラム教徒の父親の下に生まれていること、一時期、インドネシアでイスラム教を勉強したという経歴などから、大きな期待を寄せた。

 そして、オバマ氏が大統領に就任して最初に行った、イスラム世界へのメッセージは、カイロ大学での演説だった。当時、ほとんどのマスコミやアラブ諸国政府は、これを前向きなものとして評価していたが、エジプトの元情報大臣アルアハラム新聞の編集長を務めた、ハサネイン・ヘイカル氏だけはそうではなかった。彼は手厳しい評価をし、全く内容が無いと切り捨てている。

 その後、オバマ大統領は何度もパレスチナ問題の解決を口にし、パレスチナ自治政府のマハムード・アッバース議長をアメリカに招待し、アメリカからも代表を送り交渉を継続している。

 しかし、それはイスラエルの利益を、100パーセント守ったなかでのものであり、一方的にパレスチナ側にのみ、譲歩を迫る性質のものだった。ヨルダン川西岸地区では、イスラエル人による入植が進み、パレスチナのものとされてきた東エルサレムでも、パレスチナ人の家屋が破壊され、新たなイスラエル人のための住居が、建設されている。

 ガザの状況は述べるまでも無いが、アメリカが認めているパレスチナ自治政府に対し、アメリカ政府はイスラエルとの直接交渉を要求しているが、パレスチナ側が直接交渉再開の条件としている、入植活動の停止については、全く目に見えた働きかけをしていない。

 このような状況が続いたのでは、パレスチナ人もアラブ人も、オバマ大統領に対する信頼を、抱き続けることは出来ないだろう。ガザではいまだにイスラエルによる空爆が行われ、死傷者が出ているのだ。そのことを、アラブ各国の大衆は、熟知しているのだ。

アラブ諸国の安全を、アメリカが保証してくれることを、アラブ諸国政府は信じ依存してきた。アラブの仮想敵国は、イスラエルでありイランだ。イスラエルについては、アラブとの間に戦争が起きない状態を、アメリカが保証してくれることが、せいぜいの期待になってきているのではないか。

 問題は、もう一つの仮想敵国である、イランへの対応だ。アメリカはこれまで、何度と無くイランに対する軍事攻撃を、口にしてきたが、いまだに実行されていない。それでは軍事攻撃は実行しない、と言ってくれるのかというと、そうでもない。

 アラブ諸国、なかでも湾岸諸国にとっては、アメリカのイラン対応が、平和的なものであれ、軍事的なものであれ、大きな影響を蒙ることになることは間違いない。

そして、現状が維持されれば、イランからの湾岸諸国に対する圧力は、強まろうし、反体制グループに対するイランの働きかけも、大きく内政の安定に影響してこよう。

 アメリカは本当にアラブ諸国の、なかでも親米諸国を守ってくれるのかという不安が、だんだん高まってきているのだ。そのことは、アラブ諸国の反体制派を、勇気付けていることでもあるのだ。

 そして、最大の課題である、イランとイスラエルの核兵器問題について、アメリカは明確な立場を、示しているのだろうか。アラブ諸国は押しなべて「アメリカの不公平な核問題への対応」を非難している。

 イランは核の開発をあくまでも、平和利用だと主張しているが、アメリカはこれを核兵器の開発だ、と主張して譲らず、ついには、国連と自国によるイランに対する、制裁を発動した。

 しかし、アラブ諸国が主張した、イスラエルの核については、いまだに明確な対応を示していない。唯一、アメリカが示したのは、中東非核地帯化に向けた、国際会議の開催を、受け入れたことであろう。

 アラブ諸国を対象にして、実施された世論調査によれば、77パーセントのアラブ人が、イランの核開発を支持しているということだ。そして、イスラエルが最も大きな脅威だとした人たちが、88パーセントだったということだ。

 アラブ諸国のこうした認識に対して、オバマ大統領はどう信頼回復を、進めていくのだろうか。オバマ大統領が本気で、中東問題の解決を試みるのであれば、その前提として、アラブ人なかでも、パレスチナ人の信頼を、回復しなければなるまい。