私は仕事の関係からイラクを訪問することが多かった。訪問回数は100回とか200回とか数え切れない。一度、パスポートから拾い出して見ようと思う。
さて、「所変われば品変わる」というが、イラクで私が戸惑ったことを少し書いてみたい。
ある小雨の日、イラク建設省を訪れたところ、お役人から、「It is fine today. Isn't it?」 と挨拶された。私は、中学生の時に、「fine」 は、「晴天」と教えられた。おかしいではないか、今日は雨ではないか。
早速、私は反論した。「No, it is rainy today.」 そのお役人は、私の言っていることが理解出来なかったらしく怪訝そうに、「Yes, it is rainy today. So it is very fine.」と応えて来た。ここで、私は、初めて、気がついた。「fine」は、「晴天」とばかり思っていたのが間違えであると。
考えてみると、バグダッドは、一年中、殆ど真っ青な晴天続きだ。今日は、珍しく小雨がぱらついて、本当にすがすがしく、気持ちの良い日だ。「fine」とは、こんなすがすがしい日を、イラクでは、言うのだ。
同じようなことがまだある。イラク厚生省局長とアポイントがあり、午前10時に訪問した。しかし、1時間ほど待ったが局長に会えない。そのうちに秘書から、「局長は大臣に呼ばれて戻って来ない。 Please come afternoon again.」とのこと。「午後1時か2時に来れば良いか」と念を押したところ、 その秘書は、「afternoon」と言う。私は、また、「1時か2時か」と聞き直す。また、秘書は、「afternoon」と答える。
何回か押し問答して分かったことは、イラクでは、朝8時頃から午後2時頃まで、一気に仕事をして、家に帰って昼食を取り、それから、2~3時間昼寝をして、残業のある人は、夕方5時頃から出勤してくる。「afternoonに来い」というのは、「夕方5時頃来い」という意味なのだ。
その秘書は、正しい英語を使っていたとは思わないが、その秘書と英語で争って嫌われるよりは、「郷に入っては郷に従う」方が良い。
まだある。ある日夕方7時頃、イラク石油省を尋ねた。お役人いわく、「私は、まだ、朝食(breakfast)を取っていない。腹がすいている。家へ帰って朝食を早くとりたい。従って、長時間のmeetingは、駄目だ。」と。もう夕方7時だし、私は、「夕食を取ってない」と言うべきではないかと思った。
「breakfast」は、「朝食」と長年教えられて来たので、上述のように「まだ、朝食を取ってない」と頭の中で日本語に訳したが、「breakfast」を「朝食」と訳したのが間違えであった。「その日の最初の食事」の意味なのだ。ラマダン中であり、日が暮れて、最初に取る食事を「breakfast」というのだ。考えてみると、「fast」は「断食」、「breakfast」は「断食を破る」ということなので、イラク人の英語の方が正しい気がする。
タイで「水色」とは「黄土色」のことだ。バンコックの市内を流れるメナム・チャオファヤ(日本語で「メナム河」)の河の色をみれば直ぐに理解出来る。
―日本イスラム連盟・副理事長・金井勇司(2010.08.07)―