携帯電話は革命の最大の武器?

2010年8月 3日

 いまからもう、21年も前に起こったことだが、いまだに鮮明にあの時のことを覚えている。ルーマニアのチャウシスク大統領が、国民集会に、ベランダに現れて手を振っているうちに、様子が変なことに気が付いた時の表情だ。そして、その後に報じられたのは、彼が妻とともに、銃殺されるシーンだった。

 つい最近、ブラック・ベリーという名の携帯電話が、サウジアラビアやアラブ首長国連邦で禁止になったことをお伝えし、それは国内情報が外部に流される、危険性があるからだとお伝えした。

 冒頭でルーマニアのチャウシスク大統領の失脚と、処刑の話を書いたのは、実は彼は携帯電話の犠牲になった、最初の人物だったからだ。携帯電話で反体制派の国民たちが連絡しあい、あの大集会が開催されたというのだ。そして政府公認の集会は、一転し反政府の集会に変わったのだ。

 事情に詳しい友人が教えてくれたのだが、一定以上の人が集まる集会は、短時間前に連絡がなされ、人を集めることができると、集会を取り締まる側の軍や警察は、間に合わず打つ手がなくなり、その集会の流れに沿って、行動するようになるということのようだ。

 ルーマニアのケースを見ていると、それがよくわかる。軍も結局は、集会参加者に迎合する形で、チャウシスク大統領を逮捕し、処刑する側に回ったのだ。

 そこで思い浮かべたのだが、こうした大規模な集会を、携帯電話を使って開く場合には、短時間内に情報が広範囲伝わるように、しなければならないということだ。何日も前から、集会の日時と場所が明かされていたのでは、軍や警察がそれを阻止できるからだ。

 つまり、情報伝達の訓練を事前に行い、どの程度の時間内にどの程度の人数の人たちに、その情報が伝わるのかを、訓練をしながら確認し、初めて反政府の大規模集会が、成功するということではないか。

 そうなると、思い浮かぶのは、現在エジプトで行われている、ムハンマド・エルバラダイ氏を大統領に推す運動だ。ムハンマド・エルバラダイ氏の支持者たちは、彼を支持するという署名を、携帯電話やパソコン上で行っている。

 その結果、数日間以内に25万人を超える、ムハンマド・エルバラダイ氏に対する支持署名が、集められたと伝えられている。

 こうした訓練と実験を繰り返した後、ムハンマド・エルバラダイ氏を支持する人たちや、ムスリム同胞団のような反政府組織が、一斉に反政府の大集会を呼び掛けた場合、ムバーラク体制はどう対応できるのだろうか。対応は極めて困難なのではないか。