アメリカの強い圧力のなかで、パレスチナ自治政府議長のマハムード・アッバース氏が、イスラエルとの無条件の、直接交渉を受託した。
無条件ということは、条件が設定されていないということであり、それを土台に話し合いが進められるとすれば、話し合いの間に、新たな現実が積み重ねられていくことであろう。例えば、入植地の建設を凍結するという条件は、イスラエルとアメリカによって、拒否されている。
ネタニヤフ首相は、直接交渉の進展過程で、それはある種の結論に達するのであって、直接交渉の冒頭に入植凍結問題を引き出すのであれば、話し合いは進まなくなってしまうとした。
ここで問題なのは、過去にもそうであったように、イスラエル政府が認めない、いわば無許可の入植が進むということだ。入植者たちは政府の許可を得ずに入植し、そこの住宅を建設してしまうのだ。
過去にこうした不法入植者に対し、イスラエル政府は強硬措置をとっており、入植者の住宅を破壊したこともあるが、そうした強硬措置が取られたのは、全てではない。最近では、イランやレバノンのヘズブラ、シリア、パレスチナのハマースなどとの緊張のなかで、イスラエル国民は相当強硬、頑迷になってきている。
ネタニヤフ首相が、そうしたイスラエル国民の意識を無視して、入植を凍結するようなことになれば、当然相当の反発を受けることであろう。アメリカがごり押しで、ネタニヤフ首相に入植地の凍結を迫ることは、中間選挙を前にしては、難しいのではないか。
そうした状況を考えた場合、イスラエルとパレスチナ自治政府との直接交渉は、問題の所在が明らかになるだけであり、進展をほとんど期待できないのではないか。すでに、アラブ連盟のアムル・ムーサ事務総長は、交渉の失敗を予測している。
こうした実情を、マハムード・アッバース議長は、予測できないのだろうか?彼も当然予測できていたはずだ。だからこそ彼は、交渉が失敗したらそれは、イスラエルだけの責任だ、と語ったのだ。
しかし、それで済むのだろうか。マハムード・アッバース議長には、交渉を成功に導いていく、何の手だてもない、ということなのだろうか。そうであるとすれば、アメリカとイスラエルの圧力に負けていやいやながら、彼は直接交渉の場に、単に参加したということにはならないか。
マハムード・アッバース議長の、この会議への姿勢は、近い将来、パレスチナ国家を設立するという意欲を、全く感じさせないものではないのか。