「それでも和平交渉に挑むM・アッバース議長」

2010年8月25日

 アメリカが強力な圧力をかけ、イスラエルとパレスチナ自治政府に、和平交渉の座に就くように仕向けた。結果的に、これをパレスチナ自治政府の、マハムード・アッバース議長は受け入れた。

 しかし、受け入れに至る段階で、多くのパレスチナ組織と、パレスチナ有力者著名人が、イスラエルとパレスチナ自治政府との、直接交渉の会議には出るべきでない、と反対していた。

 それにもかかわらず、マハムード・アッバース議長は、この直接交渉に、出席を決めたのだ。直接交渉の前提として、パレスチナ内部からは、入植地の凍結や、パレスチナとイスラエルとの国境画定など、幾つもの条件案が出ていたが、そのいずれの条件も、イスラエル側からは受け入れられなかった。アメリカも無条件の交渉開始を、マハムード・アッバース議長に押し付けることに、成功した。

 しかも、この直接交渉の結果、パレスチナ問題に大きな進展があるとは、誰も予想していない。アメリカのヒラリー国務長官は、困難なものになることを予測しているし、この会議に呼ばれたブレア元イギリス首相も、非常に困難なものになることを、見越している。

 それではマハムード・アッバース議長は、何故この会議に出席することを、受託したのだろうか。彼ももちろん、直接交渉が極めて希望の無いものであることを、予測しているはずだ。マハムード・アッバース議長はこの会議から、パレスチナ問題を巡る、何らかの成果があることを期待して、出席するのではあるまい。

 マハムード・アッバース議長は、この会議に出席することによって、親米派アラブの国々からの、援助を取り付けること、アメリカ政府が今後も、彼をパレスチナ自治政府の代表とみなしてくれること、そのことに加えて、彼の身辺の安全を保障してくれること。イスラエル政府が彼の身の安全を、保障してくれることを願ってであろう。

 つまり、今回、マハムード・アッバース議長が、直接交渉の場に出るのは、彼の個人的経済的メリットと、彼の身の安全確保が、目的ではないのか。

 しかし、それと交換に、イスラエルによるヨルダン川西岸地区と、東エルサレムに対する入植活動は、止まることなく進められるだろう。イスラエル国内には、入植活動に反対するグループは、ほとんど存在しないし、アメリカも中間選挙をすぐ先に控え、ユダヤ・ロビーに対する配慮から、入植活動の凍結を、厳しく迫るとは思えない。

 イスラエルのネタニヤフ首相は、「いま進められている入植活動は、政府が認めたものではない。あくまでも個人が勝手にやっているものだ。入植活動を停止させるように善処したい。」と言い逃れることが出来よう。あるいはその程度の配慮も、必要ないかもしれない。マハムード・アッバース議長は、完全に足元を、見透かされてしまっているのだから。