エジプトで警察の暴力が問題視され始めた

2010年7月 2日

 観光で知られるエジプトは、一見のんびりした国なのだが、この国では戒厳令が敷かれている。したがって警察や軍隊は、必要があれば法律を無視した行動を許される、システムになっている。

 たとえば、ムスリム同胞団を始めとする、イスラム原理主義者たちは、定期的に逮捕され、拷問を受けるということが、長い間続いてきている。それはいままで、社会問題として、あまり表面化してこなかった。

 しかし、今回のアレキサンドリアのケースは、国際的な問題に発展していく可能性が、出てきたのではないか。6月6日アレキサンドリアのカフェに座っていたハーリド・サイード青年は、私服の警察二人に店外に連れ出され、死亡するまで殴打され続けた。

 このため、彼の顔は変形し、歯は抜け落ちていたということだ。死亡した後の写真が、インターネットで紹介されたが、顔中あざだらけの、ひどいものだった。

 この事件は、エジプトの大衆の間で大きく取り上げられ、抗議のデモがアレキサンドリアでも、カイロでも行われた。加えて、大統領選挙に立候補がうわさされている、元IAEAの事務局長ムハンマド・エルバラダイ氏が、在エジプトの各国大使に「民主化の必要性」を訴えもした。

 欧米諸国はエジプトの戒厳令下の暴力の実態の、最も典型的な事実を入手することにより、エジプトに対する批判が、やりやすくなったのかもしれない。もちろん、ムハンマド・エルバラダイ氏にしてみれば、不幸な事件ではあるが、極めてタイムリーな出来事でもあったのではないか。

 問題の発展を恐れてであろうか。当初、青年がドラッグを飲んで自分で招いた死だ、と説明していたが、どうもそれでは済まされない、と考えたようだ。検察側が二人の警官の暴力を、取り上げ始めている。それは、ムバーラク大統領からの、指示によるものではないのか。

 しかし、この二人の警官が逮捕し、暴力で死に至らしめたことが立証されても、最高で1年の受刑、あるいは200エジプト・ポンド(36ドル)の罰金にしかならないのだ。遺族は当初から、殺人が計画されていたとし、計画的殺人事件だと訴えている。

 それは、ハーリド・サイード青年がデモ呼びかけや、政府非難のブログを開いてかいていいたからではないか、と言われている。いずれにしろ、エジプト国内では、次第に体制の不安要素が、拡大してきているのではないか。