シリアのアサド大統領が、スペインのマドリッド市を訪問中に、中東戦争勃発の、懸念を語っている。アサド大統領のこの発言は、単なる懸念ではなさそうだ。
中東戦争と言えば、もちろん、イスラエルとアラブの一国、あるいは複数国の間で起こる戦争だが、アサド大統領は戦争勃発の懸念の第一に、イスラエルとトルコとの、関係悪化を挙げている。
これまで、イスラエルとシリアとの緊張に、トルコが両国の和平に仲介の労を、採ってきていたために、緊張は戦争暴発に至らずに済んできた。
しかし、ガザへの支援のためのフロテッラ号に対する、イスラエル・コマンド部隊の襲撃で、トルコ系アメリカ人一人を含む、9人のトルコ人が殺害されて以来、イスラエル・トルコ関係は、最悪の状態にある。
トルコ側はこの問題の処理に、イスラエル側の謝罪を要求したが、イスラエル側はこれを拒んでいる。トルコは謝罪がイスラエルによってなされない場合は、国交断絶ということもありうる、と強硬な対応を崩していない。
これでは、イスラエルとシリアとの和平の仲介を、トルコが果たすということは、期待できないのが当然であろう。
戦争を起こすとすれば、最初に挑発するか攻撃するのは、イスラエルであろう。イスラエルにはいま、戦争を周辺諸国との間で始めたい、幾つもの理由があるのだ。
それらは、シリアの兵器装備が進んでいること。レバノンのヘズブラが2006年の戦争時以上に、兵器を蓄えていること。そして、シリア・レバノン・ハマースとイランとの連帯がある。この状況を壊すには、レバノンかシリアに対する、徹底的な軍事的勝利が必要であろう。
それ以外にも、イスラエルが戦争を起こしたい理由がある。イスラエルはレバノン沖の海底ガス田を、全部抑えたいと考えている。このガス田はイスラエル沖から、レバノン沖まで伸びる長大なものであり、ガスの埋蔵量は莫大だと言われている。(埋蔵量はタマルガス床が8兆5千億立方フィート、リバイアサンガス床は16兆立方フィートと言われている)
イスラエルはかつて、レバノンのリターニ川の水源を確保するために、レバノンの南部を占領していていたが、ガス資源をめぐっても、同じ手口を使うかもしれない。そのためには、いち早く開発に着手し、レバノン沖からガスが出るようになった場合は、盗掘だと主張するのであろう。またレバノン南部の占領は、このイスラエルの主張を、実質的に補強することにもなろう。
レバノンのヘズブラやシリアは、正直なところ現段階で、戦争をしたいとは考えていまい。だからこそ、シリアのアサド大統領が、戦争抑止のために戦争の懸念を、声高に世界に訴えているのであろう。