エジプトという国は何年が経過しても、一見平和に見える呑気な感じなのだが、エジプトの国内は決して呑気でも安定した状態にあるわけでもいない。いまエジプト国内では大きなうねりが、待ち構えているようだ。
来年の大統領選挙に向けて、これまで予想もしなかったような、大物候補が誕生しそうなのだ。その大物候補とは、ノーベル賞を受賞した、ムハンマド・エルバラダイ氏だ。
この欄で以前、彼の大統領選挙での勝利の確立は低い、ということを書いたが、その判断は今でも変わらない。ただ、当時と比べ、変わったことは、ムハンマド・エルバラダイ氏とムスリム同胞団との関係に、進展があったということだ。
ムハンマド・エルバラダイ氏がムスリム同胞団の集会に、顔を出したということが、多分に、エジプト人にショックを与えたことであろう。そして、ムスリム同胞団がムハンマド・エルバラダイ氏の大統領選挙立候補に当たり、彼を仲間に引き込む可能性が出てきたのだ。
彼を引き込むという表現を使ったのは、エジプトの憲法改正にムスリム同胞団は、ムハンマド・エルバラダイ氏を盾として、使おうとしているのではないか、ということだ。
国際的に著名なムハンマド・エルバラダイ氏が、エジプトの民主化を訴え、大統領選挙に関する、憲法の改正を主張すれば、当然のことながら、世界のマスコミはそれをフォローすることになる。
そうなれば、エジプト政府は他の人物とは違って、手荒な対応は出来まい。また、ムハンマド・エルバラダイ氏が提案する憲法改正も、完全に無視し続けるというわけにはいかなくなるだろう、という判断がムスリム同胞団内部には、あるのではないか。
アレキサンドリアで起こった、ハーリド・サイド青年の警察による虐待死事件で、ムハンマド・エルバラダイ氏は抗議デモの先頭に立って、この事件を非難するという行動を起こしている。そのなかでは、まさにエジプト民主化のヒーローとして、ムハンマド・エルバラダイ氏のイメージは、広がりつつあるように思える。
この抗議デモには2-5000人が参加した、とBBCは報じているが、デモ隊の写真からは、5000人どころか2000人も、参加していないのではなかと思われる。
問題はこの抗議デモのなかで「ムバーラク体制を打倒しよう」と叫ぶ者がいたということだ。ムハンマド・エルバラダイ氏にとってこれは、極めて危険なことであろう。誰が叫んだのかは分からないが、この一言はムバーラク大統領に、ムハンマド・エルバラダイ氏への対応を、今後、強硬なものにすることに繋がるのではないのか。