混迷のなかのトルコ・クルド人

2010年6月25日

 パレスチナのガザへの救援物資を積んだ、フロテッラ号がイスラエルの特殊部隊によって攻撃さて、トルコ人など9人が犠牲になったことで、トルコの中東地域における評価は高まっている。

 実はこの同じタイミングで、トルコの南東部の町ハッカリで、PKK(クルド労働党)によるトルコ軍への襲撃事件が起きている。そのことから、この二つの出来事はリンクしている、とういう見方が出てきた。

 トルコ政府は外部からの、PKKに対する働きかけがあるのではないか、という点について検討するとともに、今後のクルドテロに対する対応を、どうするかということを、真剣に検討し始めたようだ。

 トルコの政権政党がAKP(開発公正党)になって以来、AKPはクルド人をトルコ人と同等の権利を有する国民として、受け入れるよう種々の努力をしてきていた。例えば、クルド語によるテレビ・ラジオの放送を、始めたのがそれだ。

 クルド語を使うこと、クルド語の歌を公の場で歌うことも許可し、クルド人が多く居住する地域への、開発投資も進めてきた。しかし、それでもクルド問題は、解決に向かっているとは断言できない。

 今回のハッカリ事件以来、トルコ政府は頻発するようになった、PKKの攻撃に対応せざるを得なくなり、強硬手段がとられる可能性も否定できない。エルドアン首相はそれを前提にしてであろうか、クルドのテロリストはトルコばかりではなく、ヨーロッパでも活動していると語っている。

 こうしたなか、クルド内部からはAKPとの妥協を図っていくべきだとする意見と、あくまでも強硬路線を崩さない、という意見とが出ている。しかし、強硬派も心情的には、PKKを支持しながらも、夢はクルドのトルコ領土内での、自治権の獲得のようだ。

 他方、妥協派の間からは、AKP政府が民主的で平和的な、クルド問題の解決を望むのであれば、アブドッラー・オジャラン(PKKの受刑中のリーダー)の戦いは、終わりを意味すると言い出す者が出てきている。

 この人物はアブドッラー・オジャラン氏の元側近で、アブドッラー・オジャラン氏が実は、トルコのシャドウ・ガバメントと関係していたとも語っている。シャドウ・ガバメントとは、トルコのエリートで構成される、エルゲネコン(影の権力集団)のことを意味している。

 アブドッラー・オジャラン氏も獄中にあって、最近では武力闘争に、意味を見出さなくなってきているということだ。もともと、彼はクルド人ではなく、アルメニア人だという説もある。つまり、何らかの組織によって祀り上げられた、傀儡の英雄なのかもしれない。

 どうやら、トルコのクルド問題は、新たな動きを見せ始めるのではないか。それは、外国のPKKや他のクルド組織に対する働きかけの、終わりを意味しているのかもしれない。