いまユダヤ人の起源が大きな話題になりつつある

2010年6月10日

 世界で最も狡猾で優秀でありながら、歴史的に常に虐げられ、悲惨な体験を積んで来たユダヤ人とは、一体何者なのかということが、これまで何度と無く世界中で関心を持たれてきた。

 こうした「ユダヤ人とは何か?」という大きな疑問に対する関心に加え、最近「ヨーロッパ系ユダヤ人はユダヤ人ではない?」という説が台頭してきていた。この説を採る人たちは、ヨーロッパ系ユダヤ人(アシケナージ)の起源は、ハザール帝国だという立場を採っている。

 ハザール帝国とはカスピ海の北西部にあった国で、その国がイスラム勢力とキリスト教勢力に挟まれた時、生き残りのための選択として、ユダヤ教徒に改宗したというものだ。国王がユダヤ教に改宗し、それに国民も従って、改宗したということだ。

 このハザール帝国がやがて滅び、ハザール人たちはロシアやヨーロッパに、移住して行ったのだというものだ。したがって、ヨーロッパ系ユダヤ人は、人種的にはトルコ系のハザール人であり、決してユダヤ人ではない、ということになる。

 何故このような説が出てきたのかということも、考えてみる必要があろう。その裏には、親ユダヤ派の人たちの思惑と、反ユダヤ派の人たちの思惑が、絡んでいるのではないか。

 最近、この説が発端であろうか。DNA鑑定を試みることによって、誰がユダヤ人であり、誰が偽物のユダヤ人なのかを、確認する作業が行われた。その結果は、ヨーロッパのユダヤ人(アシケナージ)と東洋系ユダヤ人(セファルディ)との間には、近似性が他と比べて、高いという結論が出た。

つまり、分かりやすく言えば、近所に住む非ユダヤ人とユダヤ人との間のDNAの類似性よりも、遠くに離れて居住しているユダヤ人のDNAの方が、近いというのだ。

加えて、アシケージとセファルディとの近似性も、他と比べると高い、ということのようだ。この場合、一つだけ付け加えておかなければならないのは、東洋系ユダヤ人セファルディは、スペインやポルトガルから追放され、一部はオランダに渡り、他はトルコに渡っているのであり、コーカサス・ハザールの地域から、ヨーロッパに入ったユダヤ人とは、異なるということだ。しかし、この二種類の起源の異なるユダヤ人のDNAも、他と比べると近い、という報告が出ている。

ユダヤ人と言っても、これらとは全く異なるのは、エチオピアのユダヤ人とインドのユダヤ人だとされた。彼らは近隣者のDNAの方が、他の地域のユダヤ人のDNAよりも、近いという結果が出ている。それは、改宗ユダヤ人が多いことに、起因しているのかもしれない。

さて、なぜ今世界中のユダヤ人のDNA鑑定をしてまで、このような結論を引き出す必要があるのだろうか。それは、ユダヤ人内部の「自分たちは一体何者なのか?」という疑問と、将来に対する不安からであろう。彼らの脳裏をよぎるのは、常にデアスポラ(追放と流浪)であり、マサダ・コンプレックス(敗北と絶滅)であり、ホロコースト、ポグロム(大量虐殺)なのであろう。