ヨルダン国王の悲痛な叫び

2010年6月 9日

 ヨルダンで6月8日に、国王の戴冠記念式典と、軍の記念式典が合同で行われた。その席でヨルダンのアブドッラー二世国王が、極めて重要な発言をしている。それは取りようによっては、悲痛な叫びとも言える性質のものだ。

 アブドッラー二世国王は「いかなる状況にあっても、パレスチナ国家の建設に、ヨルダンが犠牲になるつもりは無い。」と語ったのだ。つまり、ヨルダン川西岸地区やガザ地区を、将来、イスラエルが完全に支配し、全てのパレスチナ人を、エジプトやヨルダンなど周辺諸国に、追放してしまう計画の懸念が、あるということであろう。

 こうした懸念から、アブドッラー二世国王はヨルダン川西岸地区の、治安維持活動にヨルダンが参画することも、拒否すると語った。ヨルダン川西岸地区の治安に乗り出すということは、結果的に、パレスチナ人とヨルダン人との間に、衝突を生み出し、それがヨルダン国内にも波及し、ヨルダンで内乱状態が起こる危険性が、あるということではないのか。

 こうした懸念が、アブドッラー二世国王の脳裏をよぎったのは、最近になってイスラエル政府が、西岸地区に住むガザ出身者には、居住の権利が無いとして、ヨルダンに追放し始めたことがある。

 その追放予定者数は現段階で、既に数万人と見られており、追放者は西岸地区に居住する、ガザ出身者ばかりではなく、元々の西岸地区の住民の中からも出て来よう。西岸居住者が追放対象の場合には、危険人物、あるいはその他の理由をでっち上げて付けることで、追放が可能になってしまうのだ。

 最近になって、ヨルダン政府はヨルダン国内のヨルダン人人口と、パレスチナ人人口のバランスが逆転することに、非常に強い懸念を抱いている。つまり、ヨルダン国内でパレスチナ人の方が、ヨルダンのネイティブ国民よりも、多くなるということだ。そうなれば、政治的にも経済的にも、パレスチナ人の方が力を有し、立場が逆転することや、最悪の場合には、ヨルダンの王制が打倒されることも、考えられるからだ。

こうした懸念を、アブドッラー二世国王が強く抱いているのは、明確な外国からの工作が、既に存在しているからであろう。述べるまでも無く、その工作者はイスラエルであり、アメリカやイギリスだということではないのか。

アブドッラー国王はヨルダンの軍人や閣僚を前に、この式典の席で「われわれの血と魂で祖国を守り抜こう。」と訴えているのだ。この発言は決して、軽いものではあるまい。