支援船問題で頭を抱えるオバマ大統領

2010年6月 6日

 パレスチナのガザに向かった第二船イチェル・コリー号は、結果的にイスラエル側によって拿捕され、アシュドッド港に入港した。今回は死傷者が出なかった模様だ。

 問題は、イスラエルの支援船に対する強硬な対応が、国際的に大きな話題になっていることだ。ガザへの攻撃ではそれほどでもなかったのだが、今回は32カ国の人たちが乗船していたことから、大きな問題として報じられている。

 アラブ諸国やイスラム諸国ばかりでは無く、ヨーロッパ各国ではイスラエルに対する抗議デモが、大規模な形で実施されている。スウェーデンの港湾労働組合は、イスラエルの貨物を6月15日から24日まで、港に放置する決定を下した。イスラエルやアメリカですら、今回の蛮行に対しては、反対の立場をとる人たちが少なくなく、両国でも抗議デモが行われている。

 この事件で今、最も困惑しているのは、アメリカのオバマ大統領ではないか。オバマ大統領はミッシェル特使を、イスラエルとパレスチナに派遣し、何とか中東和平を前進させようと、必死の努力をしていたが、今回の事件で、ほとんどその可能性は、無くなったのではないか。

 以前から、オバマ大統領とイスラエルとの間には、中東和平の実現へのスタンスの違いから、合意できない部分が鮮明にあった。オバマ大統領はパレスチナ問題で、西岸での入植活動を止めるよう、イスラエル政府に要求していたし、パレスチナ国家を設立する解決案、つまり二国家案を打ち出していた。

 加えて、オバマ大統領は先のNPT会議で、中東非核地帯構想に賛成もした。それは、イスラエルに対しNPT加盟を促すばかりではなく、同国の核施設に対する査察を、将来的には実施することも含んでいる。このため、イスラエルはアラブ諸国ばかりではなく、アメリカ政府に対しても、疑心暗鬼に陥っている。

 オバマ大統領は今回の事件を機に、イスラエルに対する歩み寄りの立場を示し、事件の発生は「イスラエルの自己防衛である。」とし、イスラエルのコマンドによる支援船乗員殺人を、正当なものと認めた。

 問題はトルコとの関係だった。トルコはこのアメリカの立場に憤慨し、今回の事件を国際法廷に持ち出すつもりだ。公海上で起こった今回の事件は、海賊行為であり、ネタニヤフ首相とバラク国防相は、殺人罪で裁かれるべきだ、と主張し始めている。

 このような雰囲気のなかで、イスラエル国内にあるトルコ軍無名戦士の墓が、荒らされるという事件が起こっているが、まさに火に油を注ぐとは、このことを言うのであろう。

 アメリカはトルコがNATO加盟国の中で第二番目に大きな陸軍を擁しており、アメリカの中東政策上、非常に重要な国であることから、トルコとの関係修復も図らなければならない。一番喫緊の問題は、トルコや他のイスラム諸国で、現在非常任理事国になっている国々が、イランの核問題で制裁に、反対の立場を取る可能性が、高まっていることだ。

 合わせて、オバマ大統領のイスラム諸国との、関係改善は後退することこそあれ、前進はすまい。事件以来、トルコに対するアラブ諸国の評価は、急激に高まっている。パレスチナやエジプトでは、トルコの国旗を手に、デモに参加する人たちが激増しているのだ。

 オバマ大統領にとってつらいのは、今年11月に控えている選挙で、イスラエル支持の発言をし、ユダヤロビーとの関係を強化しておかなくては、選挙での敗北もありうるということだ。オバマ大統領は今、まさにハムレットの心境であろうか。