ガザへの支援戦のニュースがアルジャズイーラ・テレビを始めとし、世界のトップ・ニュースになっている。しかし、その裏でいま、エジプトで大きな国民運動の動きが、起ころうとしている。
エジプトでは来年、大統領選挙が実施されるが、その選挙に、元IAEAの事務局長であり、ノーベル賞受賞者のムハンマド・エルバラダイ氏が、立候補しそうなのだ。彼はまだ大統領選挙への立候補を、正式に発表したわけではないが。
ムハンマド・エルバラダイ氏は大統領選挙への立候補の条件を、憲法の改正と、治安維持法の撤廃を挙げている。もちろん、選挙が公正に行われることも、条件の一つになっている。
問題は、現状ではムハンマド・エルバラダイ氏の立候補が、不可能なことだ。したがって、選挙に関わる憲法の条項が、変更される必要がある。しかし、それをムバーラク大統領が行うことは、全く期待できないだろう。
そうなると、ムハンマド・エルバラダイ氏が大統領選挙に立候補するためには、国会・地方議会の議員の一定以上の推薦を、必要とすることになる。あるいは、既成政党に加盟して、そこから立候補するということになろう。
しかし、エジプトのいずれの野党も、彼を正式に大統領候補として、担ぎ出す意志が無い。そうした流れの中で、エジプト最大の野党であるムスリム同胞団が、ムハンマド・エルバラダイ氏に対し、選挙支援する意志のあることを、表明した。
ムスリム同胞団は、エジプトでは正式な政党としては、認められていないが、ムスリム同胞団のメンバーは、各職能組織などから立候補し、国会議員・地方議員に選出されている。
そこで問題なのは、ムハンマド・エルバラダイ氏がムスリム同胞団の支援を受けて、大統領に立候補するかどうかだ。多分、彼はムスリム同胞団をバックに、大統領選挙に立候補しないのではないか。もしそうすれば、その後の彼の行動範囲は、極めて限られたものに、なりうるからだ。また、彼のイメージが、ムスリム同胞団と重なり、国際社会では受け入れられ難くもなろう。
それでは、何故この時期にムスリム同胞団が、ムハンマド・エルバラダイ氏擁立を、言い出したのかということだ。それは、多分に今回のエジプトの諮問会議選挙の結果に、影響されたものではないかと思われる。諮問会議選挙では、ムスリム同胞団の候補者は全滅したのだ。
もちろん、その原因はムバーラク大統領側(与党NDP)の、不当な選挙操作によると、ムスリム同胞団は考えていよう。憲法改正を叫ぶムハンマド・エルバラダイ氏と、共闘を組むことによって、憲法改正運動への参加者を、増やしていくことに、真の目的があるのではないか。
同床異夢となるのか、始める前から失敗に終わるのかは、まだ断定できない部分もあろう。ム八マド・エルバラダイ氏にはエジプト社会を変えたいという、強い意志があるのか、あるいは、権力への強い意欲があるのか、そのいずれかがあれば、あるいはムハンマド・エルバラダイ氏とムスリム同胞団との、共闘が成立する可能性もあるということだ。