パレスチナのガザ住民に対する、支援船フロテッラ号が、公海上でイスラエル軍コマンドの襲撃を受け、数十人が死傷するという事件が起こって、数日が経過した。
被害者の中心であるトルコが、中東におけるイスラエルにとって唯一の、友好国であったことから、今回の事件は、今後の中東情勢に、少なからぬ影響を、及ぼすことになりそうだ。
トルコは今後、イスラエルに対し、国連など国際上で、今回の事件の責任を追及していく方針だ。そのことが、アラブ諸国に「トルコは頼りになる」というイメージを与え、中東政治の上でトルコは、主役に定着することになろう。
他方、エジプトはガザとの国境を閉鎖していたため、苦しい立場に回らされそうだ。イスラエルからの要求と、自国内への影響を恐れたエジプトは、ガザとの国境を閉鎖していたが、今回の事件が起こることにより、開放せざるを得なくなっている。
ヨルダンの場合も、程度の差はあるものの、パレスチナ住民に対する責任を、問われることになるのではないか。こうした流れの中で、シリアがアラブ諸国政治のなかで、意外な浮上を示すかもしれない。シリアはパレスチナとの連帯を叫び、しかも、ガザを支配するハマースを擁護する、立場にあったからだ。
アメリカもエジプト同様かそれ以上に、今回の事件で責任を問われ、今後の対応を問われている。オバマ大統領が昨年のカイロ大学で行った、ムスリム世界へのメッセージに次いで、二度目のメッセージを出したが、それはイスラエルに対して厳しいものではないことから、イスラム世界全体に、幻滅感を与えることとなっている。
その点、ヨーロッパ諸国は比較的自由に、イスラエル批判を行っている。そのことは、アメリカ・ヨーロッパとアラブ諸国、あるいはイスラム諸国との関係に、大きな格差を生み出していくのではないか。
イスラエルは次第に孤立する中で、ガザへの対応を少しずつ、変化させているようだ。トルコに対す強気の発言を繰り返し、「今回の出来事はあくまでもイスラエルのコマンドの自己防衛の結果であり、謝罪をする必要はない。」と言っているが、それだけでは済まされまい。もし、その立場から一歩も後退しないのでは、イスラエルばかりか世界のユダヤ人が、今後厳しい立場に、置かれることになるのではないか。
事件後、イギリスのイアイン・バンク氏(小説家)はイスラエルとの文化的、教育的協力関係を差し控えていくことを、発表するとともに、イスラエルとの翻訳出版についても、停止する方向を示し、他の作家や芸術家に対しても、同様の方針を採るように呼び掛けている。
そうしたことを勘案してであろうか。事件後、ネタニヤフ首相はガザへの物資の搬入規制を、少しずつ緩和させ始めている。