5月31日、イスラエル沖に浮かぶ、パレスチナのガザ住民に対する支援船フロテッラ号に、イスラエルの急襲部隊が小型船とヘリコプターで襲撃し、乗員10人を殺害、30人以上を負傷させる、という事件が起こった。
この事件はある意味で、起こるべくして起こった、という感じもする。それはここ数年、イスラエル国民の精神状態が、正常を保つのが、非常に難しかったからだ。レバノンのヘズブラがシリアから、イスラエル全域に届くミサイルを入手し、2006年に起こったイスラエル・ヘズブラ戦争当時よりも、兵器装備を拡充していたからだ。
そのことに加え、シリアの核開発問題、新型兵器の調達もあった。もちろん、シリアがもし兵器を使用するとすれば、それはイスラエル以外には、考えられないだろう。
加えて、イランの核開発問題があった。そのイランの核開発が、核兵器開発に繋がるものだという強い不安を、イスラエル国民は抱いていた。しかもイランが核兵器を獲得すれば、それは間違いなくイスラエルに向かって、発射されると、イスラエル国民は信じ込んでいた。そのイランの核開発をめぐる国連の会議で、唯一の盟友であるアメリカは、国連の決議に賛成した。
しかも、2012年には中東非核化地帯会議が、開催されることになったが、この案にもアメリカは賛成したのだ。イスラエルからすれば、それはアメリカの裏切りであったろう。
不安が積もり、多くのイスラエル国民が、情緒不安、ある種の国民総異常心理状態のなかで、大型船を始めとする、パレスチナのガザ住民支援船が、イスラエル沖に押しかけてきたのだ。それで益々イスラエル国民、しかも前線に立つイスラエル兵士たちは、危機感を募らせていたのではないか。
イスラエル兵が叫んだといわれる「やつらは戦争に来た!」という言葉がマスコミで報じられていたが、これはまさに異常心理状態が、言わせた言葉であろう。
イランのアハマド・ネジャド大統領は「イスラエルが強いからではなく、弱いから今回の行動に出たのだ。」という内容の発言をしている。まさにその通りであろう。
さて、今回の事件について、トルコのエルドアン首相は6月1日に、国会で演説を行っているが、彼はそのなかでおおよそ、次のような発言をしている。友人の事務所で聞いたものであり、全内容ではないことをお断りしておく。
:トルコのユダヤ人の安全を保証する、
:イスラエル国民はもっと平和を愛する政府を選べ、それはイスラエル国民に
委ねる、
:イスラエルの蛮行が可能なのは、裏に支援する国家(アメリカか?)がある
からだ、
:トルコ国民は冷静に対応しよう、
:しかし、トルコは他の国とは違うことを、イスラエルは知るべきだ、(何時ま
でも反撃されることは無いと思うな)
:トルコはこの問題を国際の場(国連か?)で解決する、
:トルコはガザを放置しない、:これはイスラエルによる国家テロだ
:トルコとイスラエルの関係は、これまでのような状態には戻らない、
この演説内容から分かることは、トルコはイスラエルの出方によっては、強硬な手段も残しておく、ということだが、当面は国連を通じて、問題の解決策を探り、イスラエル側の出方を、見守るということであろう。
また、イスラエルとの関係は、今後悪化するということであり、ガザ住民の問題を放置しないということは、そのことも含めてであろう。ただ、トルコ国民に対して、冷静に対応するように呼びかけており、しかも、トルコに住むユダヤ人の安全は守ってやるとも語っている。極めて大人の対応であり、国際的なトルコに対する評価は、今後高まろう。
今回の事件は誰が考えても、イスラエル側に一方的に落ち度があり、そのことに対する、イスラエル政府の発言は、「子供だましのようなものであった。」たとえば、船には武器が積んであった、とイスラエルは主張したが、トルコ側によって否定されると、トルコ人はイスラエル兵から武器を奪った、と抗弁している。そのような言い訳は誰も認めないだろう。
そればかりか、トルコ人負傷者に対し、手錠をかけて連行したことは、国際的な非難を受けることになろうし、イスラエルの人道主義は、誰も受け入れなくなるだろう。アメリカは今回のイスラエルの蛮行で、イスラエル擁護が難しくなることは、明らかであろう。
今回の事件で、トルコが仲介するイランの核問題や、パレスチナ問題に、意外な進展が見られるかもしれない。そうでもなければ、トルコ人の犠牲者が、うかばれまい。