9・11事件,アキレ・ラウロ号事件,そしてPKK

2010年6月 2日

 イスラエル軍コマンドによる、フロテッラ号襲撃事件はトルコばかりか、アラブ世界全体、そしてイスラム世界にも、大きな衝撃を与えた。もちろん、キリスト教世界も同様の、衝撃的な受け止め方をしている。

 トルコのダウトール外相は、アメリカに対して公正な立場に立つことを、要求している「この問題はトルコを取るか、イスラエルを取るかではない。正邪のいずれを選択するか、ということだ。」とアメリカの対応に注文を付けた。

 そして彼は、今回のフロテッラ号事件は、トルコにとってアメリカの「911事件」に相当するものだ。攻撃作戦はイスラエルの政治的リーダーによって決定され、実行されたものだからだと非難している。

 トルコの国会副議長のフセイン・チェリク氏は、今回のフロテッラ号事件とPKK (クルド労働党)テロリストによって実行された、イスケンデルン県ハタイ海軍基地への攻撃とが、連携しているのではないか、という疑問を提示している。同様の考えを野党CHPのケマル・クルチュアオール氏も述べている。 

 こうした疑惑が湧くには、それなりの節がある。PKKによってイスケンデルン県の、タハイ海軍基地が攻撃され2時間後に、フロテッラ号襲撃事件が起こっているからだ。

 今回の事件を1985年に地中海海域で起こった、アキレ・ラウロ号事件と並べて受け止める者もいる。インフォーメーション・クリアリング・ハウスは、イヴォンヌ・リドレイ女史の原稿を紹介しているが、その中でイヴォンヌ女史は、フロテッラ号事件とアキレ・ラウロ号事件との類似性を挙げている。

 こうした過去に起こった凄惨な事件と、今回のフロテッラ号事件とを結びつけて語ることは、より一層、今回の事件の凄惨さを、大袈裟に見せる効果があろう。結果的に、トルコとイスラエルの関係は、最悪の状態に陥ろうし、欧米でのユダヤ人の立場は、苦しいものになっていくのではないか。もちろん、事件の張本人であるイスラエルに対しては、相当の嫌悪感が、世界的に広がるものと思われる。

 最近、イスラエルのメイル・ダガン・モサド長官(情報局長官)は「アメリカにとってイスラエルの存在価値は、次第に後退している。」と語っている。事実そうであろう。イスラエルはアメリカの国益上、無くてはならない存在だったが、それは冷戦時代のことであり、今は湾岸諸国の資金・市場と、エネルギー資源の重要性の方が、イスラエルの価値をはるかに上回っていよう。

 加えて、トルコはアメリカの中東、西アジア対策上、イスラエル以上に有効に使える、カードとなっているのではないか。今回の事件はそれらの意味も含め、イスラエルの大きな地盤沈下に、繋がるかもしれない。