トルコで拾った大人の話

2010年5月23日

 トルコの最大野党CHPの党首が、ある女性との間で恥ずべき行為に及んでいた、というスキャンダル事件が発覚した。当然のことながら、このニュースは幾つもの憶測を呼んだ。

ある者は、外国が関与したトルコへの介入工作と語り、ある者は、純然たる性的スキャンダルだと語り、ある者は、CHPの人気回復のための内部犯行、と語っていた。なんで性的スキャンダル事件が、CHPの人気回復に繋がるのかとお考えだろうが、そこはトルコのような大人の社会と、日本のような女性主導の社会との違いだろう。

まず外国関与説では、トルコのエルドアン首相が最近、イスラエルに対し厳しい発言を繰り返していることから、イスラエルのモサドの工作であろう、というのだ。

その説によれば、トルコ最大の野党CHPは、反政府の立場を取る国民の代弁者であり、これまでCHPが政府与党を非難することで、ある程度のガス抜きが出来ていたというのだ。そして、非難が実際に与党にブレーキをかけたり、政策変更をさせるに到ることは無いとしても、国民は十分に溜飲を下げることが、出来ていたということだ。

しかし、その最大野党CHP党首のバイカル氏が、性的スキャンダルで党首の座から辞任し、CHPそのものの国民からの支持が下がれば、ガス抜きが出来なくなり、与党は真正面から国民の非難と、攻撃を受けることになるというのだ。言われてみればうなずけないことも無い。

続く、単純な性的スキャンダル事件に過ぎないとする説では、バイカル氏の行状を記録したビデオがあること、しかもそれが複数であり、人為的に作られたものではない、ということを根拠にしている。

第三の、CHPの支持拡大のための工作という説では、実にトルコらしいおおらかさが分からなくては、理解できないだろう。日本のように女性が前面に出ていて、世論形成に大きく影響する世界では、性的スキャンダルは下手をすると、政治家の政治生命を絶つことになる。

しかし、トルコでは今回のバイカル氏の行動を見て、国民の多くが彼も一人の男に過ぎない、俺たちと変わりは無いではないかと、親近感を持ったというのだ。意外にその受け止め方が、国民の間では広がったようだ。しかも、彼の年齢を考えた場合、よくやるなあという彼に対する励ましと、羨望の意見が少なくなかったというのだ。

実際には、バイカル氏は党首を辞任したわけだが、それは彼が男らしく自分の愚かな行為の、責任を取って辞任したのではなく、第二のビデオが出てきたことが真因らしい。いずれにしろ、CHPへの支持は、この性的スキャンダル事件で増したようだ。彼はまさにこの性的スキャンダル事件で、男を上げたということではないか?