ロシアのメドヴェージェフ大統領が、トルコとシリアを訪問する。トルコとの話し合いでは、もっぱら経済協力がテーマになるようだ。エネルギー部門ではロシアとトルコを繋ぐ、ガス・パイプラインと原発建設が話し合われ、貿易拡大、農業協力、治安協力、政治的協力などが、話し合われる見通しだ。
シリアを訪問した段階では、アサド大統領との間で、経済協力、原発を含むエネルギー協力などが話し合われた。
メドヴェージェフ大統領のシリア訪問時の発言で、気にかかるものが幾つかあった。それはパレスチナのハマース代表である、ミシャアル氏との対談のなかで、ガザで捕虜となって久しい、イスラエルの兵士シャリト氏の、即時釈放を求めたことだ。
加えて、アサド大統領との会談後、中東が非常に危険な状態に、向かっていることを強調した点だ。メドヴェージェフ大統領に言わせると、中東はカタストロフィーの状況に、接近しているというのだ。
一体、彼は何故それほどまでに、中東が危機的状況にある、と強調したのだろうか。考えられることは、イスラエルが主張したシリアによる、レバノンのヘズブラへの、スカッド・ミサイルを始めとした、短中距離ミサイルの供与にあろう。このミサイルの供与により、イスラエル全土がヘズブラの所有する、ミサイルの射程距離内に、入ったというのだ。
2006年に起こったイスラエルとヘズブラとの戦争時、イスラエルはヘズブラのミサイル攻撃を受け、死傷者を出しているだけに、現在のヘズブラの新たなミサイル入手は、イスラエル国内に大きな不安を、呼び起こしているのであろう。
しかし、この点についてシリアは、ミサイルの供与を否定しているし、ヘズブラも同様に否定している。レバノンのハリーリ首相は、イスラエルが根も葉もない話をでっち上げて、レバノンに軍事攻撃するつもりだ、と非難している。その認識はシリアも同様だ。
それでは、シリアやレバノンの主張を受け入れるか否かは別に、イスラエルにいま戦争をする必要があるとすれば、何故なのかということを、考えてみる必要があろう。イスラエル国内ではイランの核施設に対する攻撃を、すべきだという強硬論者と、そこまでする必要はない、とする穏健論者の二派が存在しているようだ。つまり、イスラエル国内はハト派とタカ派に、分裂しているということだ。
イスラル国民の多くは、イランが近い将来、核兵器を保有し、イスラエルを攻撃してくる、という不安を強めている。しかし、アメリカがイスラエルのイラン攻撃に対し、積極的でないことから、不安がますます高まっているのであろう。
その国民の不安と不満を解消する、適当な規模の戦争が、あるいはレバノンに対する攻撃なのかも知れない。その場合、シリアも同時に攻撃する可能性も、否定できない。シリアはイスラエルがレバノンに対し攻撃した場合、それを座視しないと言っているからだ。最近、イスラエルのアヤロン補佐官は、シリア、レバノン、イランに対し、同時に軍事攻撃を行う、能力が出来たと語っている。
レバノンあるいは、レバノンとシリアに攻撃した場合、イランがこの戦争に参加すれば、イスラエルは確実にアメリカの軍事支援を、受けることが出来よう。つまり、レバノン、シリアへの軍事攻撃で、本命のイランとの戦争を始める、口実がイスラエルには出来、アメリカをその戦争に巻き込むことが、出来るということだ。
メドヴェージェフ大統領はアメリカが、中東の平和維持にもっと積極的に、動くよう呼びかけてもいる。イスラエル兵シャリト氏の釈放への働きかけも、戦争回避策の一つであろう。
イスラエルのペレス大統領は、最近モスクワを訪問し、メドヴェージェフ大統領と対談したなかで、イスラエルは戦争を望んでいない、そのことをシリアに伝えて欲しいと依頼したということだ。
シリア、レバノンそしてイスラエルはいま、戦争勃発の危機感を強く感じているが、日本の報道を見ている限り、中東の危機が全く報じられていない、しかし、現地では極めて緊張した状態が、生まれていることを、日本の皆さんに強調しておきたい。