エジプト政府緊急法2年延長への反応

2010年5月12日

 エジプトを観光で訪問した人たちは、エジプト国民の笑顔と明るさに圧倒されるだろう。しかし、それはエジプト人の一面でしかない。彼らは緊急法の下に、厳しい監視下に置かれているのも事実だ。

 1981年にサダト大統領が、戦勝記念式典で暗殺されて以来、エジプト政府は緊急法を制定し、テロリストと麻薬取引犯を、厳しく取り締まってきている。しかし、この緊急法は実は、テロ防止や麻薬取締よりも、反政府の人士を取り締まるために、活用されてきている、というのが実情のようだ。

 緊急法があるために、警察や他の治安機関員は、逮捕状なしに逮捕し、取り調べもせずに、長期間勾留しておくことが、可能になっている。一説によると、現在エジプトでは1万人の拘留者が、取り調べも裁判も受けられずに、勾留されたままになっているということだ。

 以前に、カイロで聞いた話だが、ムスリム同胞団関係者やイスラム原理主義者たち、そしてその容疑のある者たちは、突然逮捕され勾留され虐待された後、釈放されるという、戒めのようなことが、頻繁に起こっているということだ。

 この緊急法が存在することにより、逮捕状なしの逮捕が行われ、拘留者が明かされることなく、表現の自由は制限され、議会活動も制限されるということだ。そして、最も厳しいのは特別法廷なるものが、存在するということだ。そこでは、例外的な対応が行われうる、ということであろう。 

 緊急法が存在するために、民間の各組織や個人は、盗聴され監視下に置かれることになるし、法律よりも警察、治安部隊員の判断が優先することにもなるのだ。昨今では、エジプト国民による、賃上げ要求デモが頻繁に、繰り広げられているが、彼らに対して、警察が暴力をふるうことは、日常茶飯事になっている。

 エジプト国民の反政府、あるいは各種要求デモが活発化してきている裏には、IAEAの元事務局長ムハンマド・エルバラダイ氏の、大統領選挙への立候補の可能性が出てきたことに原因があり、そのことが国民の各種要求行動に、火をつけたといえよう。彼は選挙法の改正を要求している。

 そして、もう一つの要因は、ムバーラク大統領の健康状態が、かんばしくないことにあろう。そのため、2011年の大統領選挙に、ムバーラク大統領が立候補しないのではないか、という噂が飛び交っているからだ。

 実は、2005年にムバーラク大統領は、近い将来に、緊急法を撤廃することを約束していた。こうした時期だけに、今回の緊急法の期間延長は、エジプト国民の間から不満と反発が、なおさら高まるということであろう。