イランのスパイ網湾岸諸国の反応はクール

2010年5月 8日

 湾岸の一国クウエイトで、イランのために働くスパイ・ネットワークが発覚した。クウエイト在住のレバノン人や。クウエイトのビドーンが関わっていたとされるものだ。ビドーンとはクウエイトに先祖代々居住しているにもかかわらず、クウエイトの国籍を得られないでいる人たちの呼称だ。

 イランがクウエイトを初めとする、湾岸諸国に友好的なグループが出来ることを歓迎し、支援していたということは、十分に想像の付くことであっただけに、ことさら取り立てて騒ぐほどのことではない、といえばそれまでの話だが、スパイ・ネットワークと聞くと、さすがに多少の緊張感を思えて情報を読んだ。

 しかし、このスパイ・ネットワークの情報は、以来、何度か取り上げられたものの、いまひとつ重大事件として、注目を集めていないようだ。それは何故なのかということに対する答えは、サウジアラビア政府が発表したように、全てが解明したからであろうか。

 しかし、そうばかりではないのではないか。アメリカやイスラエルがイランに対し、厳しい対応をしており、イスラエルが単独ででも、イランの核施設を空爆する可能性が、ささやかれているだけに、極めて難しい状況下に、湾岸諸国はあることも、影響しているのではないか。

イランが湾岸諸国に対し、他の地域以上に関心を払っているのは、隣接する国々だということに加え、差別待遇を受けているシーア派の国民がいることも、原因していよう。彼ら湾岸諸国の国民であるシーア派住民は、イランにとって最も各国の内情を知る上で、便利な存在でもあろう。

だからといって、イランが現段階で湾岸各国のシーア派を先導して、体制打倒の動きに出させよう、とは考えていまい。湾岸の大国サウジアラビアを除く湾岸各国は、何とかしてイランとの関係に波風を立てないよう、細心の注意を払っている、というのが実情だ。

こうした事情が、今回のクウエイトで発覚した、イランのスパイ・ネットワーク事件に対する、湾岸各国に冷静な反応を、生んでいる理由ではないか、と考えられる。バハレーンやカタールといったシーア派の国民の多い国は、特別な神経を使ってイランとの関係を維持している。

イランがアラブ首長国連邦との間で、三島問題(大小トンブ島、アブムーサ島の領有問題)を取り沙汰しているのは、アラブ首長国連邦が相手というよりも、現時点ではアメリカを対象としたものではないのか。

イラン側も湾岸諸国側も、出来るだけ穏便に事を収めたいということが、今回のスパイ・ネットワーク事件をめぐる、各国の冷静な対応の原因であろうか。