イスラエルとパレスチナ自治政府が、とりあえず間接的な和平交渉を、再開すると発表している。それは、アメリカの強い働きかけによるものであろう。
アメリカとしては中東和平、つまりイスラエルとパレスチナとが、和平に向かって話し合っている、それをアメリカが強く指導している、ということを世界に伝えたいのであろう。
イギリスの一部報道では、イスラエルによるパレスチナ西岸地区での入植地問題で、アメリカは国連の場でこれを支持するための、拒否権の行使をしないという情報が流れた。その情報はアメリカ側によって否定されてはいるが、少なからぬ期待をアラブ各国、特にパレスチナ自治政府側に、抱かせたものと思われる。
アメリカの真意がどうであるかは別に、イスラエル政府は入植活動を凍結しない、と明確に語っており、今後も継続して、西岸での入植地建設が進むだろう。つまり、イスラエルは世界がなんと言おうとも意に介さず、今後も入植地を広げていくということだ。
アメリカの強力な働きかけの前に、アラブ各国はパレスチナ自治政府に対し、イスラエルとの間接交渉再開に、賛成の立場を決めたが、各国もこの状況では、パレスチナ問題はなんら改善されないだろう、ということを十分承知しているだろう。だからといって、アラブ各国はアメリカに対してもイスラエルに対しても、切るべき有効なカードが無いというのが実情なのだ。
アラブ諸国による間接交渉承認の意味するところは、「パレスチナ問題はパレスチナ人が解決すればいい。」ということではないのか?先にアラブ・サミットで決定された、パレスチナ自治政府への巨額な援助も、実際には送金されずリップ・サービスに留まっているようだ。
このような状況に対し、マハムード・アッバース議長には、何の取るべき手段も無い。ただただアメリカの意向に沿って、顔をゆがめながら微笑して、従うだけであろう。
ところが、PFLPを始めとするパレスチナ各派や、一般のパレスチナ人はそうは行かない。パレスチナ自治政府からパレスチナ各派に、分配される資金が減っているからだ。そして、パレスチナの一般大衆は政府の援助が減り、仕事が減り、生活苦に陥っていくからだ。
このため、マハムード・アッバース議長が進めようとしている、間接交渉に反対の意見が、各派や大衆の中かで高まっている。そのことは、パレスチナ自治政府の意向に反して、各派が勝手にイスラエルに対する、武力闘争を始める危険性がある、ということではないのか。
こうした緊張状態のなかで、西岸のナブルスに近い村のモスクが、入植者によって放火される事件が起こった。もちろん、イスラエル側はこの火事が入植者による、意図的なものであるのか、あるいは単なる過失かについて、明言を避けている。
しかし、入植者による放火の可能性は高かろう。このため、この火災が原因で、パレスチナ側に宗教的な反イスラエル感情が、拡大する危険性が高まっている。四面楚歌の状態にあるパレスチナだけに、その可能性は否定できない。
しかも、この放火事件はアメリカが和平交渉を進めるために、ミッチェル特使を送ったタイミングに起こっているのだ。つまり、明確な入植者による入植活動の凍結と、和平交渉への「NO」という意思表示であろう。パレスチナ問題解決の可能性は、オバマ大統領が何度も口にしてはいるが、当分の間は何も前進しない、ということではないのか。