アメリカとイスラエルが一体となって、イランの核兵器開発を世界に警告し、新たな制裁を決議しようと努力してきた。しかし、結果的には彼らの望まない方向に、物事が進み始めているようだ。
アメリカがどう繕っても、イランの核開発だけが、地域にとって危険なものだ、とは決めつけられない。中東を非核地帯にしようという声は、1995年ごろから出ていた。
今回のアメリカによるイラン制裁への動きは、結果的に、中東地域の各国の賛同を得て、初めて効果が出るものであったため、アラブの主要国にも働きかけられたが、結果は全く違うものとなっている。
アラブの代表国であるエジプトを、アメリカもイスラエルも抱き込み、イランに対抗しようとしたが、エジプトは中東地域の核で危険なのは、イランだけではない。イスラエルの核も危険だとし、イスラエルのNPT 加盟を、強く要求することとなった。
今回の国連を舞台とするイランの核開発叩きは、アメリカ、ロシア、中国、フランス、イギリスといった核保有の主要国も、イスラエルのNPT 加盟を口にしなければならない状態に、追い込むこととなったのだ。
中東地域を非核地域にするという表現で、アメリカのヒラリー・クリントン国務長官は、地域設定がまだ明確ではない、と苦しい言い逃れをしたが、誰もそれをまともには受け止めまい。ゆがんだアメリカのイスラエル支持を、快く思わない国がヨーロッパのなかにも、増えていくのではないかと思われる。
IAEAの通常会議には110カ国が参加し、49カ国が直接的にイスラエルの核の公開を要求する決議を、僅差で獲得することとなった。この決議に反対したのは45カ国、棄権した国は16カ国だった。
今回のIAEAの決議を、一番喜んだのはイランであろう。イランはこれで当分の間、イランにだけ偏っていた核開発への圧力が、イスラエルにも向かう、と受け止めているだろう。
ヒラリー・クリントン国務長官が、時期はまだ尚早と言い訳をしても、中東地域の核廃絶の要求は、地域各国と世界から叫ばれるようになろう。その場合、イスラエルがあくまでも核に関する施設や、核兵器の存在を隠し続けることができるのか。あるいは、ある時期が到来した段階で、公開しなければならなくなるのか見ものだ。
4月にイランで開催された核軍縮の会議に向け、ハメネイ師は核兵器をハラーム(禁忌)だと断定した。イスラム法学者がハラームと裁定を下した、言葉の持つ意味は決して軽いものではない。イランがハメネイ師の主張するように、核兵器開発の意思を、有していないことを信頼したい。