革命はパンのために、イデオロギーではない

2010年4月28日

 人民が革命に立ち上がるのは、イデオロギーではなくパンのためだ、ということを以前読んだことがあるが、全く同感だ。誰もイデオロギーのために、血を流そうとはしない。よしんば、流そうとする人があっても、それはごく一部でしかあるまい。

 つまり、ある国の体制が危機的状況になるのは、その国の統治者が国民に、食料を提供できなくなった時だ、ということだ。アラブではそれが最も顕著に顕れる国が、エジプトであろう。エジプトは人口が多いために、食料の確保と支給は、容易なことではないからだ。

 これまで何度となく、ムバーラク体制の問題点を指摘してきたが、どうにかムバーラク体制は、打倒されることなく続いている。それは、エジプトに対する各国の投資や、援助が続いているからであろう。

 しかし、他方では権力と汚職が一体となり、一部のエジプト人は日本人が想像できないような、富を手にしているのだ。この国に援助を送る日本の中流階級など、エジプトでは貧困層の上部に位置している、といっても過言では無い程なのだ。

 しかし、エジプトの貧困層は、実に貧困であり状況は悲惨だ。この差があらゆる国内問題で、時限爆弾的な危険さを、生み出しているのだ。ちょっとしたさじ加減が、瞬間にして暴発につながるのだ。

 主食のパンを1円程度値上げした結果、暴動が起こったケースが過去にも、現在にもある。政府はその暴動を、力で抑え込んできていたのだ。

 今回、国民の不満が爆発したのは、肉の値段が上がったことが、きっかけだった。大衆が集まり、抗議デモを行い、それに警官が発砲し、死者が出た。逮捕者も100人を超え、そのうち22人が投獄されもした。

 エジプトでは安い肉を求め、インドやブラジルから輸入しているが、肉の値段が国際的に値上がりしていることに加え、輸送コストが上がっているために、エジプトでは過去4週間で、10パーセントの値上がりを、記録しているということだ。

 これでは普通のサラリーマン家庭では、肉を食卓に出すことはできない。週に一回肉料理が出れば、ハッピーな方だということだ。エジプト人の友人も、551100円程度)ポンドだった肉が、いまでは83ポンド(1550円程度)になったと呆れていた。所得が300ポンドから500ポンド程度の、普通のエジプト人には、とても手が出る値段ではあるまい。

 エジプトのレストラン協会も、この肉の値上がりに抗議し、4月に1300店が肉料理を出さない日を定めて、抗議意思を表明したということだ。パンの国営配給所では、パンを買い求める庶民が、先を争ってけんかとなり、14人が死亡したというニュースもある。

 ムバーラク大統領の健康問題、食糧価格の値上がりなど、エジプトを取り囲む不安材料は、日に日に増しているということではないか。