サッダーム・フセイン大統領の時代に、副大統領であったイッザト・ドーリー氏が逮捕された、というニュースが入ってきた。彼はシリアやヨルダンなどではなく、最後までイラク国内に、潜伏していたようだ。
イッザト・ドーリー氏が逮捕された場所は、イラク国内の北東部にある、バアクーバという地域で、そこはアルカーイダのメンバーが、潜伏している場所だとこれまで言われてきていた。
つまり、反体制派の旧サダム派やイスラム原理主義者たちが、潜伏しやすいのがバアクーバだった、ということだ。それは、スンニー派のイラク住民の多い場所であり、しかも、サッダーム・フセイン元大統領の出身地から近いこともあろう。
イッザト・ドーリー氏はここに潜伏して、旧サダム派の反政府勢力に対し、抵抗の作戦を立て、作戦遂行の命令を出していたのではないか。
本来であれば、早々に国外に脱出し、亡命することが出来ていたのではなかったのか。その場合に、彼の立場なら巨額の金と、高価な品々を持ち出すことも可能であったろう。
しかし、イッザト・ドーリー氏は最後まで踏み留まって、現体制に対する戦いを挑み続けていた。それは何故なのだろうかと考えてみた。
それは、彼イッザト・ドーリー氏がイラク人の典型的な、人柄を持ち合わせていた、ということに起因しているのではないか。
イラク人はアラブ世界にあって、少ない農民的思考パターンを持った民族だ。チグリス・ユーフラテスという二つの川を有しているイラクは、古代から農業が盛んであり、そのことがこの国を石油の発見以前から、豊かにしてきていた。
その農業に従事する人たちは、何処か日本人と共通する、性向を持ち合わせている。裏切れないのだ。彼イッザト・ドーリー氏は最後までイラクに留まった理由に、自分のボスであったサッダーム・フセイン元大統領が、イラクに留まり逮捕され、処刑されたことにあったのではないか。
灼熱のイラクで生きてきた彼イッザト・ドーリー氏は、すでに明確な老人になっていたろう。そして何のこだわりも無く処刑され、彼はサッダーム・フセイン元大統領の住む、天国か地獄に向かうだろう。
それも人間の一つの生き方であろう。彼の人生が正しかったのか正しくなかったのかについて、語る資格はわたしには無い。しかし、ある意味では見事な生涯、と言えるのではないか。