悲劇のヒロイン・サダムの長女ラガダ

2010年4月 6日

 ラガダ・サダム・フセインという名前を聞いて、何人の日本人が記憶しているだろうか。彼女の名が日本のマスコミに登場したのは、多分2度カ3度ほどではなかろうか。

 一度目は、彼女の夫フセイン・カーメル・アルマジドが、1995年にヨルダンに亡命した後、説得されイラクに帰国して、無残な殺害のされかたをして、死亡した後であろうか。

 二度目は多分、サダム・フセイン大統領が処刑される、前後ではなかったか、と記憶する。彼女は2003年のバグダッド陥落を機に、イラク国民によって処刑されることを恐れ、国外脱出していたのだ。いずれの場合にも、彼女は気丈にテレビ・カメラの前で、インタビューに答えていた。

 そしていま、ラガダが三度目の注目を集め始めている。それはインターポールがイラク政府の依頼により、彼女を逮捕する動きに出始めた、というニュースが伝えられたからだ。

 ラガダはいま、ヨルダンの首都アンマンの北西部にある、瀟洒なビラに住んでいるということだ。以前は、ヨルダンのアブドッラー国王が、彼女を保護し、王宮の中に住まわせていた。

 しかし、インターポールがラガダを逮捕するには、逮捕の理由が不十分なような気がする。彼女は彼女の2人の兄弟ウダイ、クサイのような、残虐行為をイラク国民にしていない。

残る逮捕の理由となりうるものは、彼女が1995年に持ち出したといわれている、莫大な金だ。その金額は10億ドルにも上るといわれている。また現金以外に、彼女は大量の金貨も、持ち出したといわれている。

しかし、ヨルダンに持ち込まれたこれらの財宝は、その後、彼女の手を離れ、ヨルダン政府も明確な所在を、知らないということだ。そうなると、イラク政府がこの資金の回収を狙って、ラガダを逮捕したとしても、金は出てくるまい。

さて、ラガダ逮捕についての今後だが、いまのところ、イラクの内務相もヨルダン政府も、詳しいことは分からないと言っている。

もし、このインターポールの逮捕が具体化した場合、ヨルダン政府はどう対応するのだろうか。ヨルダンのアブドッラー国王は、ラガダをインターポール、あるいはイラク政府に引き渡すことはないだろう、と見られている。アラブでもイスラムでも、客人をその人物の敵に渡し、殺されるようなことになれば、最も不名誉なことだからだ。

今回のラガダ逮捕の噂は、その域を出ないものであるべきではないか。彼女のこれまでの苦しみ悲しみの数々は、もし、彼女が犯罪を犯していたとしても、十分に償えきれているのではないか。