サウジがイスラエルのイラン攻撃に領空通過許可?

2010年3月27日

 ドイツのシュピーゲル紙の報道が発信源で、いまサウジアラビアがイスラエルのイラン空爆を、支援するという情報が流れている。もし、これが事実であるとするならば、政治的に大きな変化が、サウジアラビア国内の権力者集団のなかで、起こっているということであろう。

 サウジアラビアはこれまで、アラブ・イスラムの指導的な立場の国の一つに、内外から認められてきていた。イランはシーア派とはいえ、イスラム教徒の国であり、サウジアラビアがもし、イスラエルのイラン空爆を認めるとなれば、それはイスラム教徒に対する、大きな裏切り行為ということになろう。

 このサウジアラビアがイスラエルのイラン空爆に際し、自国の領空をイスラエルの爆撃機が飛行することを、認めるという情報は事実なのだろうか。

敢えてこの情報を肯定するとすれば、次のような理由が挙げられるのではないか。サウジアラビアのワハビー派は、イランのシーア派をイスラム教の一宗派と認めながらも、あくまでも亜流であり正当なものではない、と考えているということが原因だと言えよう。

もう一つ考えられる理由は、イランがアラブ諸国の過激派を支援し、シーア派を支援して、イランの勢力圏を広げようとしていることと、それに伴ってスンニー派のアラブ諸国のなかのシーア派国民が、反政府運動を活発に行うようになってきているからだ。サウジアラビアのシーア派も例外ではない。

サウジアラビアのペルシャ湾岸サイドに位置する、アルカティーフ地域はシーア派が居住する地域だが、そこでは過去に何度も政府に対する、スンニー派国民と同等の権利を求めるデモが起こったし、それをサウジアラビア政府は力で抑えてきている。

サウジアラビアが恐れるように、レバノンではシーア派のヘズブラが、イスラエルとの間で戦争をし、精神的に勝利したために、アラブ各国の不満分子は、ヘズブラを高く評価するようになった。そして、レバノン国内でもヘズブラの政治的力は、イスラエルとの戦争のあと強化されている。

述べるまでも無く、ヘズブラはイランから物心両面で、支援を受けてきている。加えて、シリアのアサド政権はアラウイ派であることから、ヘズブラやイランとの関係が強い。したがって、レバノン・シリア・イランとの間には、強固な信頼関係が出来上がっている。

イラクでもマリキー首相に見るように、シーア派の人物が首相の座にあり、今回の選挙で例えマリキー首相がアッラーウイ氏に敗北して、首相職がマリキー氏からアッラーウイ氏に交替しても、アッラーウイ氏はシーア派教徒であり、スンニー派のイラク人が首相職に就任することは無いだろう。

つまり、たとえアッラーウイ氏が首相になっても、イランとの一定の良好な関係は、維持されるだろうということだ。もちろん、アッラーウイ氏は首相になった場合、彼は世俗的な政治をうたい文句にしていることから、それほど緊密な関係にはなるまい。

イラクでは首相職ではないが、絶対的な影響力を持つ、二人のシーア派代表者がいる。それはサドル師とハキーム師だが、両者ともにイランとの関係は極めて良好だ。この二人がマリキー氏あるいは、アッラーウイ氏のいずれかが首相に就任した場合、イランとの関係でイラク政府に対し、一定の影響力を行使することになろう。

これらのアラブ諸国以外に、湾岸諸国には多くのシーア派国民がいることから、彼らの動きも非常に気になるところであろう。バハレーン、カタール、クウエイト、アラブ首長国連邦のシャルジャなどは、シーア派の割合が非常に高い。もちろん、それらのいずれの国でも、スンニー派の割合は実際より多く、公表されていると思われる。

こうして考えてみると、サウジアラビアがイスラエルのイラン空爆に、便宜を図る可能性は無いとはいえない。イランと関係が深いイラクについては、これまでアメリカがイスラエル爆撃機の、イラク領空通過を認めていない。それはアメリカにとって、イラク駐留アメリカ軍の安全を確保する上で、極めて不都合であり、危険な状況を生み出す、可能性が高いからであろう。

さて、サウジアラビアは過去に、イスラエル爆撃機の領空通過を、認めたことがあるのだろうか。実は黙認という形で、それを許したことはある。イスラエルがイラクのオシラク原発(タンムーズ原発)を空爆した時、イスラエルの爆撃機はヨルダンとサウジアラビアの領空を、通過して作戦を実行している。

そうであるとすれば、サウジアラビアがイスラエルのイラン攻撃に際して、黙認する可能性はある、ということではないのか。

しかし、ドイツのシュピーゲル紙は極めてイスラエル寄りであることから、アドバル―ンを挙げたのであろう、という見方をする専門家もいる。願わくば、この情報は単なるアドバルーンであって欲しいものだ。イスラム教徒がイスラム教徒の虐殺に加担することは、極めて不幸なことだし、イスラエルによるイラン攻撃が起これば、完全な攻撃をしない限り、世界経済を破壊する危険性が高いだけに、あってはならないことだと思われる。