アラブから追放されるパレスチナ人

2010年3月14日

 ヨルダンで2700人を超えるパレスチナ人が、市民権を失った話は、大分前に書いた。その結果、彼らにはいろいろな困難が発生している。

たとえば、大学生は市民権を失ったことで、外国人扱いとなり、授業料が高くなるのだ。結果的にその学生は、卒業までの学費が続かず、学業半ばで退学せざるを得なくなる。

各種専門技術や資格を持つ者も、市民権を失うと、専門家の組合員である資格を失い、結果的に働けなくなるというのだ。たとえば薬剤師は、ヨルダンの薬剤師組合の会員でなければ、薬剤師として勤務することが、不可能になるのだ。それは、他の専門的な職業に従事している人にも、当てはまることだ。

こうした市民権を失うことで起こる問題は、数知れないほどあるのではないか。その一つの解消法は、イスラエルに住民登録をすることであろうが、この場合にも、問題が発生している。

イスラエルとPA(パレスチナ自治体)との間には、住民登録に関する、共同の委員会があるのだが、過去数年間この委員会が機能しておらず、ヨルダン居住のパレスチナ人が、ヨルダンでの市民権を失った後に、イスラエル側から住民資格をとろうとしても、取れないということだ。

結果的に、ヨルダンの市民権を失ったパレスチナ人たちは、ヨルダンでも非合法な滞在者扱いとされ、イスラエルからも住民許可が下りないために、ヨルダン川西岸地区にも戻れない、という状況に板ばさみになっている。

そうした流れのなかで最近、エジプト政府もパレスチナ人締め出しの動きに出ている。これはガザのパレスチナ人が主な対象となっているが、イスラエルとの戦いで負傷したり、病気になった者が、エジプトで治療を受けていたが、最近になって、エジプトから追い出しを受けているのだ。

一部では、エジプト政府のハマースとファタハとの仲介で、ハマースが頑なにファタハとの合意を拒否していることが、原因だと言われている。エジプト政府はこれまで、ハマースとファタハ間の、和解の仲介努力を続けてきたが、ハマース側はこれを受け入れていない。

大分前の話になるが、リビアからもパレスチナ人が、大量に追放されたことがある。アラブは一つというが、実際にはパレスチナ人に対する対応は、各国の国内事情を強く受けているのだ。

ヨルダンではヨルダン人の人口に比べ、既にパレスチナ人の人口が、大幅に上回っている。そのことが近い将来に、ヨルダン国内で問題となることが、懸念されている。

イスラエルの厳しいパレスチナ人に対する、締め付けと追い出しが、パレスチナ人の立場を追い詰めており、アラブ各国もパレスチナ人に対する、冷遇の度を高めている。パレスチナ人がどの段階で暴発するのか、という新たな懸念が関係各国の間で、広がり始めているのではないか。それはイスラエルにもパレスチナの周辺諸国にも、共通した不安なのだ。