パレスチナ自治政府の入植地への対応はザル

2010年3月 8日

 パレスチナ自治政府がヨルダン川西岸の住民に対し、二つの厳しい決定を下した。一つは、イスラエル人が住み着く、ヨルダン川西岸の入植地住宅建設に従事することを、禁止する決定だ。

 しかし、問題は入植地の住宅建設に、従事することを禁じた後、パレスチナ自治政府はパレスチナ人建築労働者に、新たな代替の仕事を与えることはできないのだ。つまり、入植地の住宅建設に従事することを禁ずるということは、明日からの生活の糧を得る道を、断つということなのだ。

 以前から、ヨルダン川西岸地区でのイスラエル人による、入植地建設で働く労働者の多くが、パレスチナ人であることに、何とも言えない挫折感を感じてきたが、パレスチナ人にしてみれば、それ以外に生きる術が無いのだから仕方がない、ということになるのだ。

 では、パレスチナ自治政府は今回の決定について、具体的にどうしようというのだろうか。実は入植地建設に従事することを、パレスチナ自治政府は禁止する決定を下したものの、この決定に従わない者を処罰する罰則は、決められていないようだ。

 つまり、世間体を考えた決定であり、実際にヨルダン川西岸地区での、入植地の建設を遅らせるとか、阻止することを狙ったものではない、ということになる。これまで入植地の住宅建設に、従事していたパレスチナ人たちは、今までと同様に建設現場に向かい、仕事を続けるということだ。

 もう一つの決定は、ヨルダン川西岸のイスラエル人入植地で生産されたものを、西岸のパレスチナ人の店では、販売してはならないというものだ。しかし、そうなるとパレスチナ自治政府は、周辺のアラブ諸国や欧米から、輸入しなければならなくなる。

 そうした場合、輸送コストなどを考慮すると、パレスチナ人は価格の高い商品を、買わなければならなくなるかもしれない。あるいはまた、鮮度の低いもの、古いものも買わざるを得ないかもしれない。パレスチナの商人やパレスチナ自治政府が、イスラエル人の入植地以外から輸入しようとすれば、イスラエル政府によって、通関で手間取らせられることも、十分に起こりうるのだ。

 現在、ヨルダン川西岸地区が西岸にある、イスラエル人の入植地から購入している製品の合計金額は、年間で200億円から500億円にも上るようだ。そうだとすれば、既に流通経路も確立しており、生産者と販売者、そして消費者の間に、信頼関係が成り立っている、ということではないのか。

 西岸で入植地の製品を、販売することを禁止しても、それは徹底できないだろう。もしも徹底した場合、物資の不足や流通に問題が発生するだろうが、パレスチナ自治政府には、対応のしようが無かろう。パレスチナ自治政府が入植地で生産された一部物品の、流通を抑えたと言われているが、それはごく一部にすぎないだろう。インドで起こった、イギリス製品ボイコットのような動きは、すでに便利さとぜいたくさを覚えてしまった、パレスチナ人には不可能ではないのか。