エジプトのムバーラク大統領が82歳の高齢に到り、しかも30年にも及ぶ長期にわたって、大統領職に留まってきていただけに、内外で、彼の任期もそろそろ終わりか、という声が高い。
これまで、エジプト国内では何とか、ムバーラク大統領に辞任してもらい、新しい大統領に替わってほしい、という考えを持つ人たちのなかから、種々の試みが行われてきた。キファーヤ(イナフ=ムバーラク大統領は十分やったから辞任してくれ)という運動は、その典型だった。
こうしたエジプトの国民的な雰囲気のなかで、IAEAの事務局長を勤め、ノーベル平和賞を受賞した、エルバラダイ氏が大統領選挙に挑む、という憶測が流れ始めた。本人も十分にその意志があるのかもしれない。ただし、彼の立候補には、エジプトの憲法が変わり、国民が支持してくれるなら、という条件が付いているようだが。
つまり、エルバラダイ氏は、全てのお膳立てが済み、お座敷が整ったら、上座に据わってもいいという、極めて他力本願的な意思表示のようだ。それはやはり、国際舞台で重要な役割を果たしてきたという自負心と、彼の身の安全を、考慮してのことではないか。
外国の報道を見ていると、エルバラダイ氏がエジプトの次期大統領選挙に立候補するのは、ほぼ確実であり、当選の可能性も、極めて高いような内容になっているが、そう簡単ではあるまい。ムバーラク大統領はドイツ訪問時に、エルバラダイ氏の大統領選挙立候補について、記者団に対し、明確な返答をしている。
ムバーラク大統領は、エルバラダイ氏が大統領に立候補することに問題は無いが、あくまでも憲法の許す範囲で、立候補すべきだと語っている。つまり、いずれかの政党に加わって、その党の推薦で立候補するか、個人で立候補するかのいずれかだ。
もし政党に加わって立候補するとすれば、エジプトの現状からすれば、与党が大半を占めていることから、野党各派を結集する必要があるということだ。その掌握力がエルバラダイ氏にあるのか、野党各党がエルバラダイ氏支持で結束しうるのか、という問題が残っている。
単独で立候補する場合には、やはり国会地方議会の議員の多数の支持を、取り付ける必要があるが、それは簡単ではあるまい。ここでも、与党が最大政党であることが、ネックになってくるだろう。
ムバーラク大統領は記者団の中から出た「エルバラダイ氏はエジプトの英雄なのか?」という質問に対し、「今のエジプトは英雄を必要とない。エジプト国民皆が英雄なのだから。}と答えている。
エルバラダイ氏は憲法の改正を、大統領選挙立候補の条件としているが、ムバーラク大統領はあくまでも、現行憲法で大統領選挙を行う方針だ。つまり、エルバラダイ氏とムバーラク大統領との間の食い違いは、変更されないということだ。そうなれば、エルバラダイ氏の大統領選挙への立候補は、立ち消えになるのではないか。
唯一、ムバーラク大統領が大統領職を下りるとすれば、それは彼の健康問題であろう。彼が近く手術をする、という情報も流れ始めている。いまはムバーラク大統領が、健康を回復することを祈るのみだ。