トルコのエルドアン首相が、トルコに居住するアルメニア人非合法滞在者10万人を、追放すると脅しをかけた。これは、アメリカとスウェーデンの議会が、拘束力を持たないが、トルコのアルメニア人虐殺を、非難する決議を出したからだ。
アメリカとスウェーデン政府は、この決議を拘束力の無いものに抑え込んではいるが、トルコにとっては極めて不愉快なものだった。トルコ政府はアルメニア政府との間で、気の遠くなるような辛抱強い交渉を続け、正常化への道を大きく開くことが出来たのは、昨年のことだった。
多くの問題はまだ残っているものの、トルコとアルメニアは国境を開放し、通商を自由化する方向になっている。その最中に、アメリカとスウェーデンが、当事者であるトルコとアルメニアとの外交努力を、潰す動きをしたのだ。
トルコにしてみれば、この問題を1日も早く片付けて、アルメニアと正常な関係になりたい、と望んでいる。自国の暗い歴史を書き変えたいのであろうし、経済関係の拡大も望んでいよう。
他方、アルメニアは周辺を外国に囲まれ、海へのアクセスがない国だけに、何とか外国への出口を得たい、ということであろう。そうなると、歴史的に種々の問題はあったものの、トルコがその相手としては、最も好都合なのであろう。
アゼルバイジャンとは領土問題を抱えているし、イランとはあまり関係を持ちたくない、というのが本音であろう。
しかし、そうしたトルコ・アルメニア両当事国の思惑とは異なり、アメリカのアルメニア人団体が、相当に活発なロビー活動を展開し、今回の決議が出されたのであろう。アルメニアの活動家たちにしてみれば、生活がかかっているだけに、必死であろう。
トルコには現在、17万人のアルメニア人が居住しており、そのうち7万人はトルコ国籍を有し、10万人は非合法居住者だ。1988年のアルメニアの地震以来、トルコ領内に非合法に入り込み、生活しているということだ。
与党AKPの幹部は、これまでもこの話は出たが、実際にアルメニア人を追放していない、と語っている。エルドアン首相はアメリカとスウェーデンに対し、ある種の警告を発したということであろう。