今年の1月20日に、ドバイで奇妙な暗殺事件が起こった。被害者はパレスチナの強硬派、ガザを支配するハマースの幹部だった。被害者の名は、マハムード・アルマブフーフで、彼はイランからの武器の密輸を、担当していたといわれている。
アラブ世界では、政治家や政府の幹部が暗殺されるということは、よくあることで、特に興味を持たないのだが、彼の場合にはあまりにも謎が多いために、興味を引いた。
暗殺が起これば、当然誰が犯人かという、犯人捜しが始まるのだが、彼の場合には、イスラエル説、パレスチナ自治政府説、エジプト説、ヨルダン説、イスラエルとパレスチナ自治政府の合同説、と幾つもの仮説が飛び出している。
第一に挙げられるのは、イスラエルに強硬に抵抗しているパレスチナのハマース幹部であれば、イスラエルによって暗殺されたという仮説は、最もポピュラーであろう。
実際に、イスラエル犯人説はアラブ世界のなかで、最も有力な可能性として、事件直後から広まったし、それを支持する声も少なくなかった。
第二の説は、パレスチナ自治政府によって、暗殺されたというものだ。これはハマース幹部が漏らした説だ。それは十分起こりうることだ。パレスチナ自治政府の議長を務めていた、故アラファト氏は、晩年、パレスチナ自治政府の幹部たちによって、サリュームを少量ずつ摂らせられ、暗殺されたという説が、パレスチナ人やアラブ人の間では、固く信じられている。
第三の説は、エジプトあるいはヨルダンの情報機関員によって、暗殺されたというものだが、マハムード・アルマブフーフ氏は、両国が危険人物として指名手配していたことから出たのであろう。
エジプト政府はガザとエジプト国境との間に、掘られたトンネルからイラン製などの武器が、ガザに流入していることに、頭を痛めていたが、マハムード・アルマブフーフ氏はその張本人だったわけであり、エジプトによる暗殺はありうる話であろう。ヨルダンもエジプトと似たような理由で、彼を危険視していたということだ。
第四の説は、パレスチナ自治政府とイスラエルのモサドが協力して、行った犯行だとするものだが、これはレバノン駐在のハマース代表によって、語られたものだ。この説が正しいか否かは別として、パレスチナ自治政府の評判を、下げるには実に有効な説であろう。
この事件を機に、景気低迷に苦しむドバイは、新たなパンチを食らった形になる。つまり、ドバイはビジネス・センターとしても、安住の地(リゾート)としても、不適格だという印象が、出来上がってしまうからだ。