ガザのトンネルをめぐるファトワ

2010年1月15日

 イスラム教の法学者のなかで、最も権威あると認められた人物は、国家によってムフテイに指名される。そして、彼にはファトワ(宗教裁定)を下す権限が与えられる。従って、アラブ・イスラム諸国にはそれぞれ、ムフテイが存在する。

 いま、このムフテイの発出するファトワをめぐって、きわめて難しい状況が生まれている。それは、ガザの密輸用トンネルを、パレスチナ自治政府のムフテイが、違法だとするファトワを出したのだ。

 このファトワを出したイスラム学者は、パレスチナ自治政府お抱えのムフテイで、彼の名前はシェイク・ムハンマド・ビン・サルマン・アルジャメアという人物だ。

 シェイク・アルジャメアは、ガザのトンネルが違法だとする根拠として、武器を搬入していること、食料、医薬品もさることながら、アルコールや麻薬も、持ち込まれていることを挙げている。

そして、このトンネルを掘らせ、密輸をさせている金持ちたちは、トンネル密輸で死亡した人たちの遺族に対して、しかるべき補償をする義務がある、とも述べている。独身の死亡者の遺族には9000ドル、家庭持ちの場合は11000ドルとしている。

ちなみに、このトンネル・ビジネスで犠牲になった人たちの数は、300人を超えているとシェイク・アルジャメアは語っている。パレスチナ自治政府のサイトによれば、エジプト政府が密輸活動を阻止するために、トンネルに毒ガスを流して死亡させた数が、犠牲者54人のうち36人だということだ。

シェイク・アルジャメアが、このトンネル・ビジネスに反対している、最も大きな理由は、トンネルから武器が密輸され、その武器でガザ戦争が起こり、結果的に多くの犠牲者が出たからだということだ。

確かにそうではあろう。しかし、同時にガザ地区は閉鎖されており、食料も医薬品も燃料も、正式なルートでは入らないようになっている。従って、密輸トンネルはガザ住民にとっては、唯一の生命線になっていることも事実だ。信じがたいのだがそのトンネルの数は、何百本もあるということだ。

この密輸トンネルを、ファトワで禁止とする、ムフテイの言い分もわからないではないが、それでは彼は、ガザ住民の必要な食料、医薬品、燃料に加え、破壊された家屋再建のための建築材料などをどうしろというのだろうか。

ガザのハマースと敵対関係にある、パレスチナ自治政府は、ガザの住民の生活が困窮したほうが、ハマースの支持者が減るとして、このようなファトワを出させたのではないのか、とも疑いたくもなるのだが。