微妙なハリーリ・レバノン首相のトルコ訪問

2010年1月11日

 レバノンのハリーリ首相がトルコの首都アンカラを訪問した。それ自体は別に驚くほどのことではないのだが、そこで話し合われ、合意されたことが、今後、中東地域に大きな変化をもたらす、可能性を秘めている。

 ハリーリ首相のトルコ訪問で話し合われた内容は、ビザ問題、当然のことながら相互の通商問題、観光問題活性化が含まれている。つまり、シリアやリビアなどと並んで、レバノンもトルコとの間で、ビザの相互免除に合意したのだ。

 このことは、トルコとレバノン双方の、テロリストも自由に相手国に入れる、あるいは逃げ込める、ということを含んでいる、極めて危険なことでもあろう。

述べるまでもなく、レバノンはイランの支援を受ける、ヘズブラの存在する国であり、トルコは他方で、イスラエル人やユダヤ人にとって、最も安全で快適な旅行が出来る、数少ない近隣の国の一つだ。そのことをトルコとレバノンは、十分わかって合意したとすれば、それはそれで、大きな変化ということになろう。

第二の合意事項は、トルコとレバノンの互防衛協定だ。これはビザの相互免除よりも、もっとデリケートな合意であろう。少なくとも、これでイスラエルは、トルコが完全にアラブ側、イスラム・サイドに移行した、と判断するのではないか。

 トルコにしてみれば、トルコの外交力で、アラブ周辺諸国と特別な関係を構築し、次いで、イスラエルとアラブとの、和平に向けた努力をしていき、トルコの手で中東和平を、実現したいということであろう。

 しかし、トルコが考えているように、一気に攻めることがいま得策なのか、あるいは、じわじわと進めていくのが正解なのか、判断が非情に難いところだ。イスラエルをあまり追い詰める結果にならなければ、トルコの和平実現の思惑は成功しようが。

 そこで、トルコとイスラエル双方にとって、信頼される国が、両者の立場を説明し、仲介者(トルコはイスラエルとのイラン、パレスチナ、シリア、レバノンなどとの、仲介役を勤めようと考えている)の仲介役を、すべきなのであろう。

 以前、イスラエルを訪問した折に、個人的にトルコの意図を、イスラエル側の人に説明してきたが、日本のような国こそが、それをやるべきではないのか。そうしなければ、トルコの善意は、結果的に全く反対の結論を、引き出すことになりかねないのだ。

 トルコはいま、着々と旧オスマン帝国の版図の国々との、特別な関係を構築しつつある。そのことは、イスラエルにとっては、トルコの極めてデリケートな変化であろう。その感情はエジプトにとっても、同じではないか。