エジプトに不利な二つの出来事

2010年1月10日

 最近になって、エジプトに関わるあまりうれしくないニュースが、二つ伝わってきている。それは、ガザのパレスチナ住民と、エジプトとの関係が悪化しているというものと、1月7日に起こったエジプト国内の、コプト教徒襲撃事件のニュースだ。

 ガザのパレスチナ住民と、エジプトとの関係が悪化しているのは、エジプト側が多分、イスラエルの要請もあってか、ガザとエジプトとの国境地帯に、パレスチナ側が秘密トンネルを掘り、エジプトからあらゆる物資を密輸しているため、これを阻止する鉄板を打ち込む、工事を始めたためだ。

 イスラエルにしてみれば、ガザのパレスチナ人が地下トンネルを掘り、そのトンネルを通じて、食料から医薬品、建設資材から武器までも、ガザ地区に搬入していることは見逃せないのだ。このトンネルを閉鎖するために、イスラエルはこれまで、何度となく空爆を、実施してきている。

 しかし、空爆だけでは完全に密輸を止めることができず、エジプト側に圧力をかけて、密輸阻止努力をさせたということだ。これはパレスチナ人にしてみれば、死活問題であるだけに、なんとしても止めさせなければならないということになり、エジプトとガザのパレスチナ人との間で、大きな問題になってきている。

 エジプト政府による、ガザ国境に鉄板を打ち込む工事は、ガザのパレスチナ住民を、窮地に追い込むものだとして、イラン政府は激しく非難しているし、エジプト国内でも、反対の声が上がっている。

 このことに加え、ガザのパレスチナ住民に対する、支援物資のエジプト側からの搬入に対し、エジプト政府がガザ・ゲートの通過を、認めなかったことから、エジプトとガザのパレスチナ人との間で、対立が生まれ衝突まで起こしている。

 結果的に、エジプト軍の兵士が死亡し、パレスチナ人も35人が負傷している。当然この成り行きのなかで、ガザに援助物資を贈ろうとしていた、イギリスやトルコの慈善団体は、エジプト政府に対し抗議している。エジプトはガザへの援助物資の搬入問題で、世界中の耳目を集め、悪役になったということだ。

 もう一つのエジプトにとって不都合なニュースは、エジプト国内でコプト・キリスト教徒に対する、襲撃事件が起きたことであろう。コプト・キリスト教徒は他のキリスト教徒とは異なり、クリスマスを1月に祝うが、そのクリスマスのミサのために、エジプトの南部都市ルクソールに近いナジ・ハンマーデイで、1月7日の深夜に教会に集まっていた人たちを狙った、テロ事件が起きたのだ。

 述べるまでもなく、結果は6人が死亡し、多数が負傷するという、悲惨なものだった。この事件は、世界のキリスト教徒にとって、ショッキングなものであったろう。なかでも、アメリカに在住するコプト・キリスト教徒にとっては、放置できない問題であったろう。

 エジプト政府はこのテロ事件と、イスラム原理主義者との関連は無い、あくまでも以前に起こったコプト・キリスト教徒による、12歳のムスリム少女レイプ事件に対する復讐としているが、それが事実のなか、その背景には何があるのか、ということになろう。

この問題は、イスラム原理主義者による犯行とする方が、わかりやすい説明だったかもしれない。それを、エジプト政府があえて否定したということは、その裏に何かがあるということであろうか。

 エジプト政府がガザ地区への、援助物資搬入の中心的人物である、イギリスのギャロウエイ氏を追放したが、そのことも今後、問題化していくのではないか。この援助活動に参加していたトルコも、エジプトに対して厳しい批判を行っている。

 エジプトはアメリカからはコプト・キリスト教徒襲撃事件で、トルコやヨーロッパからは、ガザ問題で槍玉に挙げられるのではないか。もちろん、アラブ諸国からも、エジプトのガザ対応では、不快感を抱かれよう。そして、それはエジプトがイスラエルに対して、なんら反論できない立場にある、ということの証明であり、エジプトのアラブ世界での指導力は、弱まるばかりではないか。