今年はイランが中東問題の中心か

2010年1月 2日

 中東から相変わらず、多くのニュースが伝えられてくる。そして、そのほとんどはあまり幸運な新年の、スタートにふさわしいものではない。イラクでは爆弾テロが相次ぎ、イランでは政府と国民との対立が激化し、死者が出ている。パレスチナもガザ国境で、大騒ぎにはなっているが、進展があるような気配はない。

 今年の中東は、イラク、イラン、パレスチナが中心で動いていくようだ。もちろん、アフガニスタンもあるが、これは中東の範疇にはない。西アジアであり、あえて言えばイランとの絡みであろうか。

 さてその中東だが、イラクからのアメリカ軍の撤退が、トルコのインジルリク空軍基地を使って、始まっているようだ。イラク戦争に反対し、アメリカ軍の通過を認めなかったトルコも、戦争が終結に向かうのであれば、自国領土の通過を、認めるということであろう。

イラク問題は5-7000人程度のアメリカ軍が、恒久的に留まることで、一応の終結の形になる、ということであろうか。もちろん、その後のイラク国内の混乱は、起こり得ようが、致命的なものにまでは、ならないかもしれない。

パレスチナ問題はガザの住民の困窮が、世界的な関心を呼んでおり、エジプト側からの援助物資の輸送が、大騒ぎで行われようとしている。このパレスチナ支援運動のなかには、欧米人アラブ人トルコ人以外に、イスラエル人も参加しているようだ。

しかし、肝心のイスラエルは、世界的な圧力があっても、微動だにしない強硬な立場を取り続けている。その頑迷さは世界中の非難が、イスラエルに集まれば集まるほど、逆に今後、増幅して行くのではないか。

エジプトは自国の後継者問題で、国内政治が多忙であり、とてもパレスチナ問題に、本格的に取り組んでいく、余裕などなさそうだ。エジプトはイスラエルとの間で、アラブの盟主としての(?)、面子を保つための交渉はしても、パレスチナ問題解決に向けた、交渉は期待できないだろう。

シリアはアメリカを始めとする、西側先進国との関係を構築していきたい、というのが本音であり、トルコとの関係改善は、その意思表示であろう。ヨルダンも同様に、自国の問題が最優先する一年になろう。したがって、パレスチナ問題は大騒ぎしている割には、進展が全く期待できない、一年になるのではないか。

イランの場合はそうではなさそうだ。イランは国内外に、それぞれ大きな問題を抱えている。昨年6月に行われた選挙をめぐる、反体制運動の活発化が、今年はもっと激しいものに、なっていくことが予測される。

イランの体制側は幾つもの過ちを犯してしまっている。大統領選挙の結果について、ハメネイ師が早い段階で、明確にアハマドネジャド大統領の当選を支持し、言及したことだ。

この結果、ハメネイ師は完全に中立的公平な立場の人間から、アハマドネジャド大統領を支持する、強硬派の頭目になり下がってしまった。しかもその後、イランのジャーメジャム新聞は、ホッジャトルエスラーム・ヴァルモスレミーンのセイエド・アフマド・エルム=アルホダー師の発言で彼がハメネイ師を「イマーム」に祭り上げてしまったことを伝えている。

これはイスラム法学者の誰もが、認めないところであろう。イラン・イスラム法学界のトップであったホメイニ師も、最近死去したモンタゼリ師も、ハメネイ師よりはイスラム法学において、数段高い見識を有していたにも拘らず「イマーム」とは呼ばせなかったし、イラン・マスコミも「イマーム」とは表記しなかった。これでハメネイ師の実質的な権威は完全に地に落ちた、と考えるべきであろう。

反体制派の動きで、二人の英雄が生まれてしまった。一人は殺害された若い女性ネダー・アガー・ソルタンさん、もう一人は大統領候補であり、その後の反体制運動の中心人物となった、ムサビ氏の甥サイド・アリー・ムサビ氏だ。二人は死亡することによって、反体制側にとって、抵抗のシンボルとなり、世界的にも、支持を集める核となった。

イラン体制側のもう一つの過ちは、モンタゼリ師が死亡したいま、元大統領のラフサンジャニ師、カロウビ師、ムサビ氏らを、全て反体制側の人物と名指しし、彼らを裁判にかけるべきだ、と主張して始めていることだ。これでは体制側と反体制側との間で、仲介役を勤めうる人物が、一人もいなくなった、ということではないのか。

国際人権委員会はイランの現状について、「過去20年の間で最悪だ」と評している。この状況をチャンスと見たレザ・パーレビ氏(パーレビ国王の子息)は、バン・キー・ムン国連事務総長に対し、イランの人権が侵されているとし、調査を要請している。

イランの外部との間で発生している問題は、やはり核問題であろう。アメリカは出来るだけ軍事力の行使をしないで、平和裏に問題を解決したい、と思っているようだが、イラン側は一歩も引こうとしていない。それどころか、核施設を増設したり、イスラエルにまで届く射程距離を持つ、中距離ミサイルのテストを行ったりし、挑発的とも取れる行動をしている。

アメリカのオバマ大統領は、これまで何度となく「イランに与えられた時間は終わりに近い」と繰り返してきたが、何の効果も生まなかった。国連を通じて今後行われるであろう、イランに対する制裁は、より強硬なものとなろうが、イラン国内では、あまり問題にならないのではないか。少なくとも、体制側の人たちはそうであろう。

つい最近、イスラエルの代表がアメリカに乗り込み、イラン対応(軍事対応を含む)について話し合ったが、イスラエルが希望する結果は、得られなかったようだ。そうなると、イスラエルは単独でも、イランに対する軍事攻撃を、実行しかねなくなるのではないか。イスラエル国民は穏健派までもが、いま大きな不安を抱いており、イランに対する強硬な対応を支持する雰囲気が、イスラエル国民の間では出来上がってきている。

こうした諸々の状況を考えてみると、イランでは今年中に、大きな変化が生まれる可能性が、極めて高いのではないか、ということになるが。