不安定化の兆しかマリキー首相の懸念

2009年12月21日

 イラクのマリキー首相が自国の治安部隊や警察などに対し、疑念を抱き始めているようだ。最近、バグダッドで起こった爆弾テロは、130人以上が死亡するという悲惨なものだった。

 マリキー首相はこの爆弾テロをはじめとし、何件かの爆弾テロに、治安部や警察が関与していたのではないか、と思い始めている。そうでなければ、これだけの大規模テロが、起こり得なかったということであろう。

 マリキー首相はこのような状況に対して、相当強い懸念を抱いているのであろうか。爆弾犯の裏に誰がいるのかを突きとめるために、85500ドルもの巨額の報奨金を提示している。

 来年の1月以降、アメリカ軍はイラクから撤退を開始し、3月には選挙が実施されることになっているが、これはマリキー首相にとって、大きな賭けであろう。アメリカ軍の撤退への動きは、反体制派を勇気づけるものであり、今後反体制派によるテロが、増加していく危険性があるからだ。

 マリキー首相はエジプト訪問時に、エジプトのアルアハラム紙とのインタビューで「独裁者の復活を認めてはいけない」と語っているが、これはバアス党の残党の台頭を、懸念しての発言ではないかと思われる。

 しかし、他方でマリキー首相が、旧バアス党員の治安部への復活を認めているわけであり、彼自身にその責任があるということだ。バアス党員を追放はしてみたものの、結局彼らバアス党員が持っていたノウハウが、最も治安回復のうえで有力だった、ということによるものだった。

 加えて、アメリカ側の要求もあったのであろう、アメリカは宗教色の弱い政府を作っていくために、スンニー派やシーア派の台頭を抑えるべく、バアス党員の復活を認めるように、マリキー首相に助言していたものと思われる。

 マリキー首相も世俗的政府を構成していくために、シーア派の最大組織とは距離を置きながら、バアス党員の治安組織への参画を認めていた。事実かどうかは別として、一説によれば現在、イラクの治安部には95パーセントのバアス党員が、戻っているということだ。

 ところが最近になって、どうもこの治安組織に復帰した、バアス党員による大規模テロが、イラク国内で起こり始めているということのようだ。選挙を前に、これは放置できない問題となりつつある、ということであろう。

マリキー首相のエジプト訪問は、治安問題での協力を求めてのものであるかもしれない。ただ、現在のエジプトに、イラク国内の治安回復に、協力するだけの能力があるとは、思えないのだが。