西岸のモスク焼き討ちの後に何が

2009年12月13日

 ヨルダン川西岸地区のヤスフという村の、モスク(イスラム教の礼拝所)が焼き討ちにあうという事件が、12月11日に起こった。このことは、日本ではあまり報じられていないが、今後、尾を引くことになると思われる。

 イスラム教徒にとって、モスクが焼かれるということは、ジハードの対象になり、その復讐は正当化されるのだ。しかも、モスクのなかにあったコーラン(イスラム教の聖典)も焼かれ、礼拝用のじゅうたんも、焼かれていたということだ。

 焼き討ちにあったモスクの壁には「代償を支払え」「お前たち全員を焼き殺す」などといった言葉が、殴り書きされていたということだ。

 ユダヤ教の法律では、聖なる建物に火を放つことは、禁じられている。ヤスフ村の近くにあるタプア入植地の住民は、この焼き討ち事件には関与していない、と犯行を否定している。

 ヤスフ村のモスクが焼き討ちに遭ったことは、一瞬にして、世界中のイスラム教徒の知るところとなった。イスラム諸国会議(OIC)は早速非難声明を出しているが、今後この問題に対する対応が、イスラム諸国会議(OIC)で討議されることになろう。

 最初に決められるのは、モスク再建の資金を送ることであろう。そして、コーランが大量に送られ、じゅうたんも送られることになろう。これらのことは別に問題なかろう。サウジアラビアなどはモスク建築に、大金を送ることになり、モスクは焼かれたものよりも、立派なものが建つことは間違いあるまい。

 それで「めでたしめでたし」で終わればいいのだが、当然、イスラム教徒による報復が起ころう。世界中のシナゴーグ(ユダヤ教の礼拝所)が、イスラム教徒の放火の対象になった、と考えていいのではないか。もちろん、建物ばかりではなく、ユダヤ人も攻撃のターゲットに、なったということだ。

 加えて、ここ数年増加している、反セム反ユダヤのヨーロッパ人が、イスラム教徒の襲撃に見せかけて、シナゴーグに放火することもありえよう。そうなった場合、ユダヤ教徒はどう自分たちを守っていくのであろうか。

 愚かなイスラエルの入植者が、イスラエル政府の決定した、「入植活動を10ヶ月凍結する」という決定に抵抗して、行ったのであるとすれば、結局、その代償を支払うことになるのは、世界中のユダヤ人だということになる。

 あるいは、イスラエルのユダヤ人は軍や警察のガードで守られ、被害を受けないかもしれない。しかし、そうであればなおさらのこと、この事件に対する反発は、世界中に広がるということだ。

 そしてもうひとつの、この事件の予想される被害者は、パレスチナ自治政府であろう。パレスチナ自治政府のマハムード・アッバース議長は、ヨルダン川西岸での、ハマースの設立22周年記念行事を禁止したが、この放火事件への厳しい対応は取れまい。

そうなると、ヨルダン川西岸地区のハマース以外のパレスチナ人も、マハムード・アッバース議長を中心とする、ファタハの権力側に反発を強めることになろう。そうなれば、ますますパレスチナ内部は分裂し、力を失うということだ。そこから出てくるのは、自暴自棄になったパレスチナ人による、テロ行動であろう。