イランの大統領選挙の結果に、不満を抱いているイラン国民は、少なくないようだ。ただそれが、イラン国民の多数派であるかどうかについては、断定できない。しかし、都市部に限って言えば、多数派になっている可能性はあろう。
都市部の人間は、パソコンを持っている者や、携帯電話を持っている者が、少なくないからだ。もちろん、パラボラ・アンテナを使って、外国のニュースを、外国語で見て理解できる人の割合も、都市部は地方に比べて多かろう。
そうした人たちの間には、当然のこととして、欧米のファッションやライフ・スタイルが流れ込み、政治的自由についても、多くの知識を得ていよう。彼らが欧米並みの自由を享受したいと臨んだとしても、それは不思議ではあるまい。
大統領選挙をめぐる、一連の反政府運動は、そうしたことから起こっているのであろう。これに対し、地方ではそれほど外国のニュースが、関心を持って受け止められているとは思えない。地方の住民は、生活が最優先しているであろうから、アハマド・ネジャド大統領が進めている、生活支援策は支持されてよう。
従って、イラン国民といっても、都市部の住民土と地方の住民との間には、大きな隔たり意識の相違が存在するだろう。そう考えると、イラン国民の意識や動きを、ひとつのものとして捉え、理解しようとすることは、間違いであろう。
そこで、いま関心を持つべきなのは、都市部に居住するイラン国民が、どのような心理状態にあるのかということだ。彼らの多くは、アハマド・ネジャド大統領の再選を快く思っておらず、大統領選挙結果は不正なものだった、と受け止めている。
従って、彼らが政府に対する抗議の行動を起こすことは、正当な権利だと考えていよう。勇気ある者は抗議行動に参加するのは、必然ということになる。12月7日に行われた抗議行動も、そのひとつであろう。
その流れのなかで、意外な新しい動きに驚かされた。それは抗議行動を起こしている人たちによって、故ホメイニ師の肖像画が焼かれた、というニュースが伝えられたことだった。
このホメイニ師の肖像画が焼かれたというニュースは本当なのか?それは神権体制支持者によるものなのか?あるいは、反体制側の人たちによるものなのか?いまのところ確たる証拠を手にすることは出来ない。
神権体制支持派の人たちによるのであれば、今後、アハマド・ネジャド大統領に反対している、ムサビ氏、ラフサンジャニ師、カロウビ師、そして、その他の反体制側の人たちに対する弾圧が、今後は本格的なものになっていく、ということであろう。ホメイニ師の肖像画が焼かれたということは、大弾圧を行うに十分な、根拠となると思われるからだ。
もし、反体制派の人たちによって、肖像画が焼かれたのであるとすれば、抵抗運動は明らかに、第二段階に入ったということではないか。選挙の結果に対する抗議から、体制そのものに対する抗議、反対の動きになったということなのだ。
そのいずれが正しいとしても、今後は相当に厳しい状況が、生まれてくることが予測されよう。もちろん、最後の可能性「このニュースは嘘だった」ということであれば、それほど緊張は高まるまい。
それにしても、イラン国内ではホメイニ師の肖像画が焼かれた、というニュースがたとえ嘘だとしても,このような嘘話が出て来るということは、神権体制に相当な緩みが、生まれつつあるということではないのか。