エジプト人でIAEAの事務総長を務めた、エルバラダイ氏は国際的に著名な人物だ。彼が世界的によく知られるようになったのは、イランの核開発問題を、引き受けてきたからであろう。
彼はアメリカやヨーロッパの圧力に屈することなく、イランの主張に耳を貸し、権利も認めながら、これまで出来るだけ公正な判断を下し、世界に向けて発表してきた。
その国際的スタートもいえるエルバラダイ氏が、ムバーラク大統領に挑戦することになる、エジプトの大統領選挙に立候補してもいいと言い出した。しかし、その条件は選挙が公正に行われること、民主的に行われることだとも語っている。
この発言は非情に微妙だ。つまり、これまでのエジプトの大統領選挙は、公正でも民主的でもなかったが、もし公正で民主的な選挙になるのであれば、立候補してもいいということだ。このエルバラダイ氏の発言の意味をよく考えれば、痛烈なムバーラク体制に対する、批判ということであろう。
当然のこととして、エジプトのムヒード・シャハーブ法律担当大臣が、このエルバラダイ氏の発言に、噛み付いた。その理由はエルバラダイ氏に、政治家としての経験が無いことなどを挙げているが、ムバーラク大統領に対するゴマすり以外の、何ものでもあるまい。
たとえ、エジプト政府がエルバラダイ氏を恫喝したとしても、彼にはエジプト以外に、定住する国はいくらでもあろう。
それどころか、エジプト政府ムバーラク体制のエルバラダイ氏に対する、対応いかんによっては、エジプト政府が危険にさらされることになるのではないか。既にガマール氏への禅譲の下ごしらえが、エジプトのなかでは進められ、最大野党のムスリム同胞団幹部が、多数逮捕投獄されている。誰がどう見ても、これは民主的でも、テロ対策でもあるまい。
エジプトでは以前に、抜群の人気を誇った元外相で、現在アラブ連盟の事務総長である、アムル・ムーサ氏が大統領候補として、国民の間で話題に上った。次回の選挙に向けても、彼を担ぐ声は少なくないが、それはアムル・ムーサ氏にとって、危険な賭けとなろう。
何故エルバラダイ氏が、今回大統領選挙に立候補してもいいと、条件付で語ったのか、その裏には、外国の思惑があるのではないか。有力な、しかも外国で知名度と評価の高い人物が、立候補しそうになり、それを取りやめるとなれば、エジプトンの大統領選挙が、民主的でも公正でもないと、エルバラダイ氏が世界に宣伝することと同じになろう。
その結果、エジプト政府に対する評価は大幅に低下し、次期大統領候補とささやかれている、ガマール氏のイメージは、極めてダーテイなものとなろう。
エルバラダイ氏が実際に立候補するか否かは、現段階では断定できないが、少なくとも、彼の一言がガマール氏擁立の大きな障害になったことは、事実であろう。ムバーラク大統領はこのエルバラダイ氏の動きをどう押さえ、発言の及ぼす影響を消し去ろうとするのだろうか見ものだ。