来年の1月の予定されている、パレスチナ自治区の議長選挙に、現在議長を務めているマハムード・アッバース氏は、立候補しないと言い始めている。
その理由は、アメリカのイスラエルに対する対応を、不満としてのもののようだ。マハムード・アッバース議長は中東和平を仲介している、アメリカのヒラリー国務長官がイスラエルによる、入植地の拡大を和平交渉の前提にすべきで無い、と主張していることに腹を立てているからだというのだ。
ヨルダン川西岸地区では、イスラエルとパレスチナとの和平交渉が、取り沙汰されているなかで、着々と入植地の建設が進められている。世界中の国々が、このイスラエルの対応に非難を寄せているが、イスラエルは何とも感じていないようだ。それは、アメリカがイスラエルを、支持しているからに他ならない。
この状態では、マハムード・アッバース議長はパレスチナ住民の手前、和平交渉に乗り出すわけには、行かないということだ。そこで、アメリカの対応を変えさせるためには、これまでアメリカの操り人形役を果たしてきた、マハムード・アッバース議長自らが、議長職を継続しないということが、何らかの効果を生み出す、と考えたのかもしれない。
しかし、それがマハムード・アッバース議長の本音ではないことは、イスラエルにもアメリカにも明確に分かっている。もし、本当にマハムード・アッバース議長が、1月の選挙に立候補しないとなれば、彼の後任の立候補者となるのは、ムハンマド・ダハラーン氏だからだ。
このムハンマド・ダハラーン氏は、英語とヘブライ語を自由にあやつれる人物であり、イスラエルもアメリカも、最も信頼できる若手の人物だからだ。ムハンマド・ダハラーン氏は述べるまでも無く、ハマースとファタハの間で起こったガザ戦争のときまで、ガザの治安責任者であった人物であり、イスラエルとの交渉は、数え切れないほど経験し、イスラエルとの信頼関係を、構築してきた人物だ。
もし、マハムード・アッバース議長が1月の選挙に立候補しないことになれば、彼のこれまでのスキャンダル疑惑が急浮上し、極めて不名誉な立場に立たされる、可能性は否定できまい。ファタハ内部には彼に対して、不満を抱いている古参のメンバーが、相当数いることもあり、辞任したからといって、安心は出来ないのだ。
そうなれば、マハムード・アッバース議長が本気で、選挙に参加しないということはありえない、ということになろう。そのことを、イスラエルもアメリカも十分知っているわけだから、今回の彼のアメリカに対する、抗議の選挙立候補取りやめ宣言は、何の効果も生むまい。イスラエルの新聞は、一応取り上げて入るが、全く真剣に受け止めてはいまい。
パレスチナ問題の悲劇は、パレスチナ自治政府の中心をなす人たちの、汚職がひどすぎることに加え、彼ら自身が本気で、建国を望んではいないということではないか。
何百万人という、パレスチナ以外に居住するパレスチナ難民を受け入れ、限られた土地の中で、仕事を与え、教育を与え、医療を与え、、、、ということは、どう考えても至難の技であろう。難民問題、占領問題を抱えている分には、いくらでも世界にパレスチナの悲劇を訴え、援助を引き出すことが出来るからだ。
そうした状態が続く限り、ファタハの幹部はパレスチナ国家の建国は、しないほうが有利だ、と判断して当然であろう。だからこそ、最近ではユダヤ人とパレスチナ人が一体となる、統一国家案が急浮上してきているのだ。つまり、イスラエル政府におんぶに抱っこで行くことが、パレスチナ自治政府の新しい選択肢に、なってきたということだ。