マハムード・アッバース議長の危険な立場

2009年10月13日

 いまパレスチナ自治政府のマハムード・アッバース議長は、これまでの政治活動経験のなかで、最も危険な時期を迎えている。それは、ガザ戦争をめぐるゴールド・ストーン氏の、国連への報告書への対応で、大きな失敗をしでかしたからだ。
 ゴールド・ストーン氏はガザ戦争の調査士報告書を、国連に提出したがそのなかで、イスラエル側にもハマース側にも、戦争犯罪があったとしている。この報告書は国連総会から、国連安保理にまわされることになっていたが、アメリカの圧力を受けたマハムード・アッバース議長は、国連安保理に回すのを遅らせるように申し出、結果的に国連安保理には持ち込まれなかった。
 このマハムード・アッバース議長の下した決断は、ガザの住民の犠牲を無駄にするものだとして、激しい反発がガザ地区だけではなく、西岸地区のパレスチナ人の間でも広がった。
 マハムード・アッバース議長のお膝元である、西岸のラマッラ市などでは激しい議長への、反発デモが繰り広げられたことから、パレスチナ自治政府が、ヨーロッパ訪問中のマハムード・アッバース議長に対して、現段階で西岸に戻るな、と警告したほどだ。
 ハマースはこのマハムード・アッバース議長の、判断ミスを激しく非難し、彼にはパレスチナ解放闘争を指導していく、能力も資格も無い、と非難の舌鋒を鋭くしている。そのことに加え、パレスチナの元在エジプト大使のナビール・アムル氏からは、自分がマハムード・アッバース議長によって、暗殺されるのではないかと恐れている、というコメントが飛び出している。
 さすがに困ったマハムード・アッバース議長は、これまでの立場を変更させ、国連人権委員会でガザ戦争について、投票を依頼したいと語り始めた。しかし、とき既に遅し、ということであろうか。パレスチナ人の心は、マハムード・アッバース議長から既に離れていよう。
 パレスチナ人の間ばかりではなく、アラブ全域でマハムード・アッバース議長に対する非難が高まっており、彼だけではなく、彼が組織した内閣のメンバー全員に対しても、ノーが突きつけられている。
 一体、何故このようなばかげた失敗を、マハムード・アッバース議長は下したのだろうか。実は、アメリカが彼にガザ報告の国連安保理送りを、断念することと交換に、西岸に新都市建設の資金を提供する、ともちかけたようだ。結局彼は欲に目がくらんで、大きな判断ミスをしてしまったということであろう。
 パレスチナ問題をめぐって、アメリカから厳しい注文と、妥協を迫られているイスラエル政府にしてみれば、今回のマハムード・アッバース議長の判断ミスは、当分の間、パレスチナ内部に混乱をもたらすことから、歓迎すべき状況ということになろう。アメリカがマハムード・アッバース議長に持ちかけた話は、それが狙いだったのであろうか?