イランに対する経済制裁は効果があるか

2009年10月10日

 アメリカはいま、ヨーロッパやロシアを巻き込んで、イラン対する新たな経済制裁を、効果あるものにしようとしている。もちろん、この話には日本も、がっちり組み込まれているのであろう。

 問題はアメリカが真剣に取り組んでいる、経済制裁による核問題に対するイランの妥協引き出し策が、成功するか否かだ。これまで何度も書いてきたように、もし、イランが最後まで妥協しなければ、アメリカは好むと好まざるとに関らず、イランとの軍事衝突という選択を、せざるを得なくなるだろう。

 つい最近、ノーベル賞選考委員会はオバマ大統領に対し、ノーベル平和賞を贈ることを決定した。このことは、オバマ大統領に苦しい選択をさせることに、繋がるかも知れない。

 述べるまでも無く、オバマ大統領がノーベル平和賞を受賞することになった理由は、「核の無い世界」の実現を推進していくためだ。そのオバマ大統領が、みすみすイランが核兵器を作ることを、放置したのでは笑い者になろう。従って、オバマ大統領はノーベル平和賞を受けることによって、選択肢が狭められたということではないのか。

 他方、イランだが、経済制裁のなかで、最もイランが困窮するのは、ガソリンの輸入が止まることであろう。公共のバスや電車が不整備なイランでは、自家用車や民営のバスが、主たる移動手段となっているからだ。

 もし、イランのガソリン輸入が不可能になれば、国民の不満はいやおうにも高まろう。ガソリン・スタンドでの喧嘩や、ガソリン・スタンドへの放火といったことが起こり、社会不安そして政治不安に、繋がる危険性があろう。

 ベネズエラがガソリンの輸出を申し出ているが、同国のガソリン生産には限界がある。ベネズエラはイランと同様に、アメリカと敵対していることから、石油精製設備が老朽化しているからだ。

 イランがガソリンを輸入しようと思えば、残るのは周辺諸国からの、密輸に頼るということであろう。イラク、トルコ、トルクメニスタン、アゼルバイジャン、パキスタン、アフガニスタンなどがそれだ。もちろん湾岸諸国からも、密輸は行われよう。

 そして中国がアメリカの主導による、イランに対するガソリン禁輸に、どう対応するかだ。いままでのところ中国は、アメリカが進めようとしている、イランに対する制裁で、非協力的な立場を守っている。それは中国がなんとしても、イランの石油・ガス資源を、手に入れたいと考えているからだ。

 イラン同様に中国もまた、公共の移動手段が未整備であることから、石油の輸入に支障が出れば、国内では暴動が起こる、危険性があるのだ。そう考えると、中国は何らかの形でイランに対するガソリンの輸出、あるいはイラン国内でのガソリン生産に手を貸すのではないか。

 イランのマスウード・ミルカゼミ石油相は「輸入先は追加した」と語り、ガソリン禁輸は効果を生まない、と豪語している。逆に、イランに対してガソリンを輸出することから抜ける企業に対しては、輸入リストからはずすとも語っている。

 イランにしてみれば同国が有する石油とガス資源を、中国ばかりではなく、フランスやドイツ、イギリスなどが狙っていることも、強みであろう。

 そして、イランがこれだけ強気なのは、世界の景気が悪いことに加え、石油精製の量に余裕があり、精製業者は輸出したがっているからだ、ということのようだ。そのことに加え、イランは独自で石油精製能力を高めるとし,早晩、イラン自身がガソリンの需要を、満たせるとも語っている。

 考えてみれば、ガソリンの精製には、それほど高い技術を必要としてはいまい。日本は大東亜戦争の頃、松の木の根から油を採り、使用していたではないか(松根油)。

 原油に熱を加え、ガソリンや灯油を作り出すことは、簡単で小さな設備でも、可能なはずだ。言ってみれば、酒から焼酎を造るようなものであろう。従って、ガソリンのイラン向け禁輸を、アメリカが実行したとしても、イランは一定期間、それに耐えうるのではないか。

 もし、イランが本格的な、ある程度の規模の製油所を、作ろうとするのであれば、それが結果的に核開発のスピードを、落とす効果があるかもしれないが。