イラク各派が選挙に向けた動き活発化

2009年10月 9日

 イラクでは来年に控えた選挙に向け、事前の活動が活発化してきている。マリキー首相は野党側の攻勢を前に、必死で多数派結成工作をしているようだ。

 マリキー首相の動きは、多分にアメリカの意向を受けたものであり、宗教や宗派にこだわらない、世俗的連合政権であり、スンニー派、シーア派、キリスト教徒などを集めたものを構想している。

 マリキー首相はこの連合を、「法治国家連合」と名づけているようだが、何処まで法治なのか疑問だ。この法治国家連合には、クルド出身のタラバーニ大統領も参画するようであり、既に、アメリカ政府はタラバーニ大統領に対し、現在の権力機構を、全面的に支援することを約束している。

 他方、シーア派出身であるマリキー首相(ダウア党)にも誘いをかけた、シーア派のサドル師を中心とする野党連合(シーア派連合)は、「イラク国民同盟」と名乗り始めている。この連合組織にはシーア派のハキーム派「イラク・イスラム最高評議会(SIIC)」も主要な組織として加わっている。

 この流れのなかで、興味深いのはハキーム派に対し、サドル派が優位に立ってきていることだ。そして、これまでイラク・シーア派の最高権威者とされてきた、イラン人アヤトラ・オズマ(大アヤトラ)である、シスターニ師の影響力が、イラク・シーア派内部で後退してきているのではないかということだ。

 それは、サドル師がイランのクムで、宗教の勉強を積み、アヤトラ・オズマになったことが、影響しているのではないか。これまでは、シスターニ師を除いて、アヤトラ・オズマがイラクにはいなかったからであろう(他のイラク人のアヤトラ・オズマは、サダム政権時代に殺害されている)。

 従って、イラクのシーア派イスラム教徒はシスターニ師に、あらゆる面で指導を仰がなければならなかった。しかし、いまではイラク人のサドル氏が、アヤトラ・オズマに昇格したことにより、ファトワ(宗教裁定)を出す権限が、サドル氏にも与えられるようになったのだ。

 今後は、イラク・シーア派の国民の間で、サドル氏の発言力が、ますます強まっていくのではないか。そして、このサドル氏と元首相だったアラーウイ氏との関係が、強化されて行くことが予測される。

 その場合、立場が弱くなったシスターニ師は、マリキー首相との関係を強化していくのか、あるいは沈黙していくのかが、今後イラク国内政治の上で興味深い点だ。現時点では、シスターニ師は選挙に対し、前向きな意見を口にしていない。

 もし、マリキー首相がスンニー派の元サダム親衛隊ともいえる、バアス党員の情報部員を重用していくことによって、自身の権力を守ろうとすれば、当然のこととして、シーア派国民のほとんどを、敵に回すことになりかねない。しかし、彼は不安からその禁じ手を使うかもしれない。今後、イラク国内は来年の選挙に向けて、相当もめそうだという予測が、順当なのではないか。