トルコの文化を代表するもののひとつに喫茶店がある。日本で大分以前に流行った歌に「昔アラブの偉いお坊さんが恋を忘れた哀れな男に、、、。」というのがあったが、ここで歌われているのは、アラブではなくトルコであろう。
古くは、現在のエチオピアやイエメンに始まるコーヒーが、砂漠のアラビア半島を越えて、トルコに紹介されると、オスマン帝国(トルコ)が禁酒の国であったこともあり、爆発的に広がっていったということだ。このためカフワーネと呼ばれるコーヒー店が、トルコのいたるところに、登場することになった。
最近のような高失業率の時代には、一家の主人たちは自宅に居場所が無く、ストレスからの逃避もあり、このカフワーネに出向き、トルコ・コーヒーやトルコ・チャイ(トルコの紅茶)を飲んで時間を潰すことになる。
そこで友人とたちと世間話をし、政治談議に花咲かせ、トランプやバックギャモンに興じることになるのだ。それにはタバコも加えられて、初めてワンセットが成立するのだ。
ことろが、今年の7月から公共の場での喫煙が禁止され、レストランでも喫茶店でも、バーでも喫煙が禁じられることになった。結果的に、喫煙者のお客は、ガーデン席に行かざるを得ないということだ。しかし、カフワーネはそうもいかない。
喫煙者のためにテーブルを表に並べると、決まって近隣者からクレームが付くからだ。今の時期はいいとしても、冬場になったら雪の降る表のテーブルには、もう座っていられなくなるだろう。
結果的に、喫煙者たちのカフワーネに行く回数が、激減しているということだ。このことは、カフワーネの経営が厳しくなるということであり、この禁煙法が今後も続くのであれば、相当数のカフワーネが、倒産することになる見通しだ。
そこで、さすがに耐えかねたカフワーネのオーナーたちが、禁煙法を撤回してくれるように、政府に働きかけ始め、一部のオーナーたちはハンストすらも、決行し始めている。
エルドアン首相はトルコ国民の生活を守ると言っているが、カフワーネのオーナーたちの生活は埒外か、と憤慨している。彼らはマスコミを通じて、この運動を盛り上げていき、禁煙法を撤回させる方針だ。
10万軒のカフワーネのオーナーたちが、一体となって運動を起こせば、あるいは禁煙法が撤回されるかもしれない。しかも、成人のトルコ国民の70パーセントが、喫煙者だといわれているだけに、この運動は今後、意外な盛り上がりを、見せていくかもしれない。
トルコを訪問して、一番困難なことは、空港内が全面禁煙だということだ。乗り継ぎ便の時間が長いトランジット客は、乗り継ぎ便待ちの間も、タバコを吸うことが出来ないのだ。以前はビジネス・ラウンジには喫煙コーナーがあったが、今ではそこも喫煙できなくなっている。
エルドアン首相が敬虔なイスラム教徒であり、タバコを吸わないのは分かるが、だからといって、あまりにも強硬な禁煙措置をとっては、サウジアラビアのワハビー派と同じになるのではないか。
トルコの主要産業のひとつが観光であること。トルコがイスラム世界と欧米世界との、架け橋であるならば、もう少し柔軟な対応がなされた方が、いいのではないかと思うのだが、それは私が喫煙者だからであろうか。