イランの大統領選挙で、同国の権威集団である法学者グループが、二つに分裂したのではないか、ということを何度となく書いてきた。そして、それに輪をかけ、ハメネイ師とアハマド・ネジャド大統領との関係にも、亀裂が生じているのではないかということも書いた。
ここにきて、また新たな動きがイラン国内で、起こり始めているようだ。それは、一時期反政府派が外国政府なかでも、イギリスとの関係があった、あるいはアメリカの反政府派に対する、支援があったという情報が、飛び交っていた。
常識的に考えれば、もしそうした情報に信頼性があるのであれば、デモ参加者に対する裁判は、極めて厳しいものになり、国家反逆罪で処刑される者も、多数出ることが予想された。
しかし、ここにきてイラン高官の発言に、変化が生まれている。まずイランで最高位にあるハメネイ師が、デモは選挙前から計画されていたとしながらも、国の関与を否定したということだ。その予兆は、ラフサンジャニ師の仲介役としての、ニュアンスを含んだ発言から、始まっているのではないか。
加えて、これまで沈黙を守っていたハタミ元大統領が、「裁判は無効だ」と声高に主張し始めたことだ。彼は強要によって得た証言は、何ら正当な根拠や証拠に、ならないと語っている。
こうなると、今回の選挙後のイラン国内の混乱の張本人は、アハマド・ネジャド大統領ということになるのではないか。つまり、彼がデモ参加者に対して、必要以上に厳しい対応をした結果、イランの国論が分裂し、敵意が拡大したということになろう。
しかも、極め付きは逮捕者に対する、レイプが起こったという、抗議だったろう。イスラム教を国教とするイランは、性的に厳格な国であるにもかかわらず、国家権力側の人間が、留置所内で男女をレイプしたということが、実際には起こらなかったとしても、それが話題になるだけでも、極めて恥ずべきことであろう。
女性のレイプ被害者は、いまだに名乗りを上げていないが、男性のレイプ被害者が、名乗りを上げている。つまり、レイプは実際にあったということを、イラン国民全体に訴えたということだ。
こうした流れのなかで、ハメネイ師は神権体制を維持していく上では、ハタミ師やカロウビ師、ラフサンジャニ師らと、妥協する方が得策、と考えたのかもしれない。そうであるとすれば、今後アハマド・ネジャド大統領は、極めて危険な状況に、置かれる可能性があろう。その危険に、彼が力で対抗しようとするのか、座して死を待つのか。大統領選挙によってはじめられた、イラン国内の権力闘争は、今後厳しい展開を見せよう。