ヨルダンの軍事法廷が、6人のシーア派イスラム教徒が、彼らの思想を広げる活動をしたかどで、逮捕され裁かれている。この6人のシーア派イスラム教徒が、ヨルダン国籍なのか否かについては、報道のなかではふれられていない。
本来であれば、スンニー派がほとんどを占めるヨルダンで、シーア派が宣教活動をしても、何の成果も得られないはずなのだが、現状はどうもそうではないようだ。
レバノンのヘズブラによる、反イスラエル闘争がパレスチナ人の間で、大きな支持を得たと同じように、ヨルダンのスンニー派イスラム教徒の間にも、支持者を増やしているようなのだ。
このため、ヨルダン政府は今回の対応に、踏み切ったものだと思われる。その場合、スンニー派からシーア派への転向よりも、シーア派に転向したヨルダン人が、イスラエルへの抵抗闘争を起こしていく不安と、ヨルダン国内での反体制活動につながって行く、不安からであろう。
イランの欧米に対する強硬な立場は、イラン国民だけではなく、イスラム教徒世界全体で、ひそかな共感を呼んでいるようだし、アラブ世界では、ヘズブラの勇敢なイスラエルに対する闘争が、大きな支持を集めていることは事実だ。
それらの感情は、イスラエルに対する敵対心もさることながら、イスラエルに対し何もできない、自国政府と自身に対する、不満からであろう。その心理状態は拡大していき、何時の時点かで暴発する危険性を、はらんでいるのではないか。
イエメン政府がサアダ県の、アルホウシ部族に対して、強硬な軍事対応を行ったのも、何処かヨルダンの例と、通じているような気がしてならない。サウジアラビア国内での、シーア派に対する強硬姿勢や、隣国イラクへのテロリスト送り出し、スンニー派過激組織への資金供与、といった情報が流れてくるが、これらはどこかで同じ原因に、つながっているのではないだろうか。
シーア派対スンニー派の対立は、小規模なものであれば、過去にもあったことは否定できないが、昨今のような大規模なものは、歴史的に類例がなかったのではなかろうか。そう思いたいのは、イスラム教徒の共通の感情であり、したがって、スンニー派対シーア派の対立は、欧米がイスラム教徒を分裂させ、敵対させるために仕組んだものだ、という思考に結び付いていく。そして、すべての問題の原因の種は、欧米によって播かれたということになる。
しかし、そうした被害者の論理による、現実からの逃避だけではなく、イスラム教徒内部にこそ、真の原因があるという考えも必要であろう。